Canon EOS Kiss Digital N+EF-S 18-55mm(f3.5-5.6), f5.6, 1.0s(絞り優先/三脚)
私のささやかな趣味のひとつとして、壊れかれのRadioならぬ壊れかけのVideoを直して使うというのがあるのをご存じだろうか。ご存じないですか。それはいけません、ぜひ頭の片隅にとどめておいてもらわないと。実はそうなんです、2、3年前の一時期、それがメインの趣味だったこともあるくらいなのですよ。
脳が純文系なのでくわしいメカのことが理解できず、一定以上壊れているものは直せないのだけど、壊れかけくらいなら直せたので、どんどん買って直していたらいつの間にか部屋がビデオデッキだらけになっていた。怪しいビデオのダビングを商売にしてる人みたいだ。いや、もちろん、そんなことはしていないですよ。
主にオークションで買っては売って、売ってはまた買ってというのを繰り返して、今は10台体制で落ち着いている。これだけあるとビデオ録画に不自由しない。民放とNHK、BSとWOWOWあわせて全部で10チャンネルあるから、同じ時間に10番組観たいものがあったとしても大丈夫なようになっている。
テレビっ子という言葉はよく聞いてもビデオっ子という言葉はあまり聞かない。けど、世の中は広くて、そういう人種はけっこうたくさんいるのだ。上には上がいるというのはどの世界にも言える。私などは全然ライトな方で、ビデオに対する強いこだわりがあるわけでもない。高級デッキを集めてるとか、画質について熱く語るとかそういうレベルではないので安心して欲しい。わー、逃げないでー。
何故ビデオデッキが好きなのか、自分でもよく分かっていない。たぶんそんなに好きじゃないと思うのだけど、10台も持っていてそんな言い逃れはできまい。だから、たぶん好きなんだと思う。どう考えても10台は必要ない。
初めてうちにビデオデッキがやって来たのは高校1年のときだった。ようやくビデオが一般に出回り始めた頃で、中級機でも20万円もした時代だ。レンタルビデオ屋が近所に一軒初めてできたのもその頃だった。ビデオを1本借りるのに2,000円とかしたのも、今となっては信じられない。
それにしてもビデオは画期的だった。観たい番組が重なったときはどちからをあきらめるしかなかったものも録画して観ることができるのは嬉しかったし、テレビにあわせて家に帰らなくてもいいというのは気持ちをずいぶん自由にさせてくれた。それまではテレビ番組に合わせて生活していたのから。
最初に買った機種がなんだったのかはもう覚えてない。つき合いのあった電気屋から買ったから三菱だったことは間違いないのだけど。あれは何年くらい持ったんだったか。
自分専用のビデオデッキを買ったのはいつだっただろう。大学に入ってからだったか。その頃には、生活の中にビデオは完全に入り込んでいて、なくてはならないものとなっていた。ビデオが壊れたときは悲しくてご飯も食べられなかったくらいだ。多少安くなっていたとはいえ、まだ10万円以上していたから今のように簡単に買い換えるわけにはいかなかった。
世の中にビデオデッキというものが初めて登場したのが1975年のことだ。ソニーが発売した、今は亡きBetaシステムのSL-6300で、翌年ビクターが追いかけるようにVHSのHR-3300を出した。それからしばらくの間、Beta対VHS規格闘争が続くことになるのだけど、これも今となっては昔話だ。20代の人はBetaを知らないかもしれない。私たちの頃でもBetaはもう半分死に体だった。友達が何故かBeta好きでたくさん映画を録画して持っていたのだけど、それが借りられずに残念だったのを覚えている。レンタル屋でもBetaコーナーは隅に追いやられて日陰者となっていたので、ますますBeta人口は減っていった。それでも愛好家に支持されてほそぼそと生産は続けられていたようで、2002年にソニーがBetaの生産中止を発表したときは、まだ作っていたのかと驚いた。
その後3倍録画やS-VHSの登場があり、ビデオも各社激しい競争の時代に入り、価格もどんどん下がっていった。その一方で、のちにバブルデッキと呼ばれるビデオも誕生している。ビクターのHR-2000や、松下のNV-V1000など、30万から40万というとんでもない値段のものもあった。当時はメーカーにもユーザーにも金があった。惜しげもなく技術と資金を投入して、メーカーの渾身のビデオを作る余裕のあった時代だ。ああ、なつかしのバブル。
そこまでいかなくても、80年代の終わりから90年代にかけて、各メーカーいいビデオをたくさん作っていた。ビクターならHR-X5やX7、松下ならNV-SB1000WやNV-SB88W、三菱はHV-V6000やV900、シャープでもVC-BS600などがあったし、サンヨーだってVZ-S6000Bという34万もするものを作ったことがあったのだ。NECにもVC-DS3000がある。
バブルが弾けて以降は、値段の高い機種はあっても真の高級ビデオというものは存在しなくなった。メーカーがビデオに対してそこまで思い入れを持って作ることができなくなったから。画質の点では進歩していても、モノとしてはやはりバブルの頃がピークだったと思う。ユーザーの側のそんな思いも、もはや懐古趣味でしかないのだけど。
今まで40台くらいビデオデッキを所有したと思う。その中で値段の高さでいえば、ビクターのHR-X3が一番ということになる。もちろん、いいデッキだった。あまりデジタル臭くなくて、好感の持てる高画質だった。
ただ、個人的に一番好印象だったビデオは、同じ時期のビクターのHR-V2という中級機だ。これもかなりの高画質で、なおかつメカがすごくキビキビしていて使っていて気持ちよかったから。壊れて売ってしまって以来縁がないのだけど、いつか状態のいいものをもう一度買いたいと思っている。
再生画質だけなら、もしかしたら日立の7B-BS87が一番だったかもしれない。これは妙なビデオで、自己録再だとなんか変なんだけど、まともなデッキで録画したものを再生させると恐ろしくきれいに再生するやつだった。DVDのようなデジタルっぽさで他のビデオとは明らかに違うものがあった。
他に好きだったものとしては、ビクターのHR-VX1、三菱のHV-V700、東芝のA-BS3、松下のNV-BS30S、NV-SB77Wなどがある。
基本的に録画はメカが丈夫で壊れにくい松下を酷使して、再生はビクターや東芝を使うのがいつの間にかスタイルとして定着した。少し前までの松下のデッキは本当に壊れない。三菱や東芝、ビクターは激しく使うともろさを見せる。
直しやすさという点では、突然電源が入らなくなった東芝とビクターが一番簡単だ。電源ユニットのコンデンサを交換すればいいだけだから。一番やっかいなのが、三菱や松下のS-VHS死亡というやつで、HICコンデンサ交換なんて私にはとても手に負えない。メカ部分では、松下が複雑で難しい。日立やソニーなどは壊れる場所が決まっていて分解が簡単なので、なんとかそのあたりまではできる。ゴムベルト交換で直るものも、裏からアプローチできないものは難易度が高い。
VHS、S-VHSの単独のビデオデッキは、2002年以降ほとんどのメーカーで新機種を出していない。2003年にビクターと松下が出したのを最後に、まったく新モデルが登場していないという現実をもってしても、ビデオの時代は終わったと思わざるを得ない。すでに生産そのものが今現在ビクターと松下しかやっていない。近い将来売り場に並ぶことさえなくなるだろう。
ただ、2007年にS-VHS規格の特許が切れるということで、もしかしたら今年から来年にかけて新たな動きが出てくるかもしれない。とはいえ、まともなビデオデッキはあまり期待できそうにない。
HDDやDVDレコーダーも価格が下がってだいぶ普及してきた。今後はまだ規格の未整理という点でどうなっていくか読めない部分もあるものの、再びビデオの時代が来ることだけはないだろう。
とはいえ、HDDやDVDレコーダーも万能ではなく、むしろいろいろな欠点や問題点があることも確かだ。HDDは日常的なものを撮って観て消していくのには便利にしても保存には向かないし、DVDレコーダーは規格が乱立していてややこしすぎる。DVD-Rなどは10年も経つとディスクが読めなくなる可能性があるというし、今後規格が変われば新しいプレイヤーでは再生できないなんてことにもなりかねない。
それに、HDDやDVDを親の世代が使いこなせるとはとても思えない。ビデオのタイマー予約でさえできない人に、HDDやDVDの使い方をマスターしろというのは無理だろう。子供でもビデオカセットなら入れて再生すればすぐに観られるけど、HDDなどではそうもいかない。勝手にいじらせると大事なものまで消しかねない。
当面の逃げとしては、DVD-R/RAMドライブ、HDD、VHSデッキが一体になった3in1レコーダーで様子を見るということになるだろうか。永久保存版のようなものは今のところビデオに残しておくのが一番安全かもしれない。
それにしても、メーカーは規格を統一する気がないのか。独自の規格を出すことでどんなメリットがあるというのだろう。これだけバラバラになってしまったら、当分ひとつにはまとまりそうにない。なんとか地デジが本格始動するまでには格好を付けて欲しい。その頃までにはさすがの私もビデオデッキに見切りを付けているだろう。
ビデオデッキが生まれて30年。もう30年というよりまだ30年という気がする。自分が生まれたあとに登場したものがもう終わりかけていることに寂しさのようなものを感じる。カセットテープが終わるときはこういう気持ちにはならなかった。CDの音のよさに驚き、MDにすんなり移行できたから特に不便も感じなかったというのもある。レコードも、時代の流れで当然だと思った。なのに、どうしてビデオデッキだけ未練が残るんだろう。
ひとつには、それぞれ特徴があるというのがある。単に画質の良し悪しだけでない個性があって、好きなビデオとそうじゃないのがあったりするのが面白い。壊れたのを直せば愛着もわく。やはりビデオデッキには何か特別なものがあるように思う。他のどんな電化製品とも似ていない。
私がもし長生きをして90くらいのじじになったとき、たくさんのビデオデッキに囲まれて、それらをなでながら暮らしたいと思う。ビデオテープを出し入れするガシャンという響きに、このレトロな感じがたまらんのぉとか言いながら。