はぐれるカモたち、口を閉ざして多くを語らず

野鳥(Wild bird)
オナガガモとキミはダレ

Canon EOS D30+EF75-300mm(f4-5.6), f5.6, 1/45s(絞り優先)


 素知らぬ顔ですれ違う2羽のカモ。中学の廊下で目を合わせず交換日記を手渡す私とユミちゃんみたいだ。ユミちゃん元気にしてるかな。
 っと、そんなことはいいとして、むむ? キミは誰ですか? グェ? グェ? そうそう、奥のキミ。
 なんか微妙な違和感があるぞ、キミ。一見カルガモのメスのようだけど、頭の色合いが明らかに違う。赤茶色すぎる。でも目の上の筋とかはカルガモっぽい。のだけど、カルガモならくちばしは黒だ。オレンジってことはマガモのメスかとも思うんだけど、ここまでオレンジ一色じゃないし、赤ら顔すぎる。酒でも飲んだか?(あらぬ疑い)
 雑種なんだろうとは思うけど、アヒルの血は入ってないんじゃないか。体のサイズは普通のカモと同じくらいだから。
 カモは変わった色や模様をしてる雑種がけっこういるから、これもその中の一羽なんだろう。出生の秘密をカモに訊ねてみたけど、固く口を閉ざして答えてくれなかった。黙秘権の行使は人だけでなくすべての生き物にも与えられた権利。

 手前のはオナガガモのオスだ。この時期はカルガモ以上にありふれたカモだから、池や川に行くとたいていどこでもいる。とはいえ、一般的な認知度はさほど高くないんじゃないだろうか。カルガモは知られているし、マガモくらいなら普通でも知ってるかもしれないけど、オナガガモまで知ってるのは多少なりとも野鳥に関心のある人だと思う。
 目印は、胸から腹にかけての白と、名前の由来にもなっている長い尾っぽだ。漢字で書くと尾長鴨。そのまま。英名はpintailで、これも訳すと針の尾のこと。16枚ある尾羽のうち、中央2枚が針のようになっているところからきている。中国語名も針尾鴨。どこまで行っても見たままの名前で呼ばれるやつ。

 写真のオナガガモは集団からはぐれたのか、4羽のカルガモ軍団の中に混ぜてもらっていた。普段は群れてるかペアになってることが多くて、この日の香流川では他でも見かけなかったから、本格的に迷子になってしまっていたのかもしれない。一本北にある矢田川にはたくさんお仲間がいるよ、と教えてあげたかったけど地図に書いて説明するわけにもいかず、そのままになってしまった。上手く合流できるといいけど。
 こいつらは野生のカモのくせに妙に人なつっこくて、近寄ってもあまり逃げないし、都会などではあっけなく餌付けされてしまっている。手なずけるのは赤ん坊の手からおしゃぶりを取り上げるより簡単かもしれない。一回食パンでもやればもうかなり慣れてしまう。モテない男にモテる女の子がバレンタインのチョコをやるようなものだ。
 普段は雑食性で、水草とか水生昆虫などを食べている。夜は田んぼなんかにも食料調達に出かけたり、他のカモより少し首が長いので水底の土を掘り返したりなんかもするようだ。逆立ちしたような格好で尻と長い尾っぽだけ水面から出している姿をよく見かける。

 生息地はカモの中では広い。ユーラシア大陸から北アメリカ大陸まで広がっているというから、地球の北半分にはたいていのところにいることになる。冬になるとみんなでずずずっと南に移動していく。ユーラシアのは日本やアフリカなどへ、アメリカのは中央アメリカへ。
 ひとつ面白いのは、渡りがかなりいい加減らしいということだ。たいていの渡り鳥は繁殖地と越冬地がだいたい決まっているのに、こいつらは気まぐれにあっちへ行ったりこっちへ行ったりする。去年日本に来ていたやつが今年はアメリカにいたりするらしい。いろんな国を旅してみたい世界の車窓からカモと呼べるかもしれない。

 色気づく恋の季節は冬。越冬地でペアを決めて、子育ては北へ渡ってから。戻ってすぐに卵を産んで、メスは温めに入り、オスは用なしとなる。子供の養育もメスの仕事だ。北へ戻ったはいいけどやることなしのオスたち。あの恋の季節はなんだったんだ。それはWhite Illuminationさ。Diamond Dustが遠くに見える(このへんは軽く読み飛ばしてください)。

 秋の入り口の9月終わりにいち早く日本にやって来るオナガガモたち。のんびりしたやつは5月まで居残っていたりするから、一年の半分以上も日本で過ごすのもいるのだろう。これからしばらく全国の川や池や内湾で見ることができる。
 池のある公園にデートで行って見かけたら、さりげなく「オナナガモ、かわいいね」と言ってみるといいかもしれない。相手の反応は、「すごい! よく知ってるね」となるか、「え? 野鳥の会の人?」とひかれるか、どちらになるかは賭けだけど。いずれにしても、あまり深追いして多くを説明しない方が身のためだとは思う。

記事タイトルとURLをコピーする
コメント
  • 2005/12/16 22:47
    ぇ?野鳥の会の人?

    の方だな。私。アハハ
  • 今年はまだ大丈夫だけど来年は
    2005/12/17 03:08
    ★spinyさん

     やっぱり?(笑)
     確かに野鳥に異常に詳しいってのもちょっとね。(^^;
     魚に詳しすぎるさかなクンみたいだものなぁ。
     私なんかは去年からにわかに野鳥に目覚めたばかりなんで、まだまださっぱりだから安心(?)だけど、来年の今ごろはさらに詳しくなっていそうで自分でも怖いです(笑)。
コメント投稿

トラックバック