
勝手に発表シリーズの新規開拓アーティストの今回は”羊文学”編をお送りします。
羊と文学とくれば村上春樹でしょうと、勝手に思い込んで聴いてみたら違った。たぶん、本人たちは意識していないと思う。あるいはしているのか。
文学を名乗るくらいだから文学的かといえばそうでもない。少なくとも文学的表現に満ちているわけではない。
羊文学を紹介するとき、”オルタナティブロックバンド”とされることが多い。周りが勝手にそう呼んでいるのか本人たちが自称しているのかは分からない。
オルタナティブって何だろうと調べてみたら、代案、代替物、二者択一、主流な方法に変わる新しいものといった意味で使われる英語由来の言葉らしい。オルタナティブを出してくださいとあの知事が使いそうな言い回しだ。
音楽業界では、”主流なジャンルとは一線を画す新たな音楽の方向性としてオルタナティブという言葉が定着している”そうだ(新語時事用語辞典より)。
要するにこれまでのジャンルには属さない新しいタイプの音楽性を持ったバンドということなのだろう。
ただ、ロックバンドといっているのだけど、どの曲を聴いてもロックではないように思う。ロックの正確な定義はよく分からないのだけど。
ボーカル兼ギターで作詞作曲を担当する塩塚モエカとベースの河西ゆりか、ドラムスのフクダヒロアの3人で構成されている。
もともと5人組のガールズ・コピーバンドとして出発したのが2012年で、その後オリジナルメンバーの脱退と加入を経て2017年から現体制となった。
フクダヒロアは男性だけどMVを見ると女装しているのか?
バンド名は羊という言葉がまずあって、音楽を超えた世界観を表現するために文学をつけたとインタビューで語っている。
塩塚モエカは慶応の文学部卒だから村上春樹くらいは読んでいるかもしれない。読んでいないかもしれない。村上春樹は早稲田だし。
あなたは羊文学が好きなのかと問われると、そうでもないと答えることになる。すごく好きでもないけど嫌いでもない。わりと好き、というのが無難な答えだろうか。
でも、初めて知った頃と比べるとだんだん好きになっているのは確かだ。羊文学を好きになるには少し時間がかかる。
一度好きになればだいたいどの曲を聴いてもいい感じに聴くことができる。羊文学調といったものが確かにある。
詩とメロディーでいうとメロディーが表で詩が裏だ。詩が先にあってメッセージをメロディーに乗せて歌っているといった感じではない。だから、羊文学の曲は何度聴いても歌詞があまり頭に入らない。私だけだろうか。
YouTubeにアップされている動画は今のところ20本とあまり多くない。
非公式のライブ音源の中にもいい曲があるので、今後はもう少しアップする動画を増やしてもらえると更に注目度が上がるんじゃないかと思う。
以前聴けていた曲が何曲か聴けなくなったのはPremium会員ではなくなったせいかもしれない。
やはり広告はとてもわずらわしいので、早く日本でもPremium Liteを始めてほしい。
羊文学 『1999』 2018年12月5日
2018年12月にデジタル配信されたファーストシングルで、羊文学の原点ともいえる曲がこれだ。
2013年以降、自主製作でライブなどで音源を販売していたようだけど、2017年にインディーズのレーベルに所属して以降が本格的な活動開始時期ということになるのだと思う。
メジャーデビューでいうと、ソニーミュージック内のF.C.L.S.に移籍した2020年ということになる。
そういう意味ではまだ新人バンドに近い。塩塚モエカは2020年だか2019年だかに大学を卒業したとインタビューで言っていたので今は23歳前後だろう。
ネット上にあるいくつかの記事で羊文学について知る手がかりが得られる。
人気急上昇中のバンド<羊文学>と15のブランドが奏でるファッションコラボが実現!(三越伊勢丹)
葛藤するあなたへ、羊文学が「POWERS」で提示するお守りと拠り所(音楽ナタリー)
羊文学は歌い鳴らす、「声なき声」をなかったことにしないために( 天野史彬)
「誰か」の背中にそっと手を添えて──羊文学、堂々のメジャー・デビュー・アルバム『POWERS』(鈴木雄希)
Live in the City 塩塚モエカ(羊文学)
インタビュー動画がアップされている。
羊文学 『マフラー』 2018年2月7日
2ndミニアルバム『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』より。
羊文学はロックではないと個人的には思っているだのだけど、じゃあ何かと問い直されると答えられない。広く言えばJ-POPに入るとしても、どういう曲調かというとよく分からない。羊文学を聴いたことがない人に羊文学の音楽を説明するのは難しい。
それと、羊文学をどういう状況で聴くのが適しているのかもよく分からない。
朝なのか夜なのか昼なのか。家なのか外なのか。
どのシーンにも合いそうだし、どのシーンにも合わないようにも思う。
自分の感情がどういうときに聴くのが合っているのかも。
羊文学 『Step』 2017年10月4日
ミニアルバム『トンネルを抜けたら』より
このリズム、テンポ、メロディーが羊文学らしさと言えるんじゃないだろうか。
もちろん、本人たちは自分たちの作風を広げようとあれこれ試行錯誤をしてるのだろうけど、聴く側というのはどうしてもそのアーティスト”らしさ”を求めてしまうものだ。
パターン化は安定をもたらす代わりに飽きられやすくもある。
固定ファンをつなぎとめることと新規ファンの開拓の両立はなかなか難しいのだろう。
ただ、迷ったときに戻っていける自分らしさの土台を持っていると強みになる。
羊文学 『天気予報』 2018年7月25日
1stフルアルバム『若者たちへ』より
ここまで4曲聴いてもらったとしたら、羊文学の音楽性がだいたい分かったと思う。なるほど、そういう感じねと。
あまり好みじゃないなと感じたとしても、切り捨てるのはもう少し待ってほしい。聴いているうちに少しずつ馴染んでよくなっていくから。
羊文学 『マヨイガ』 2021年7月7日
今年の7月にデジタル配信された最新シングルで、アニメ映画『岬のマヨイガ』(公式Web)の主題歌となっている。
今後、主題歌やタイアップ曲などが増えていくともっとメジャーになるはず。今から知っておくと、5年後くらいにギリギリ古参を名乗れるかもしれない。
羊文学 『おまじない』 2020年12月9日
2ndフルアルバム『POWERS』より。
フルアルバムとしては2ndの『POWERS』が初メジャーということになる。
レーベルの力もあってか、オリコン最高32位というから、私が思うよりも羊文学はよく知られた存在のようだ。
アーティストのことをよく理解したければやはりアルバム単位で聴くのが一番だと個人的に思っている。写真家の写真を単独で見るのと写真集で見るのとの違いに似ている。
羊文学 『白河夜船』 2021年8月25日
5thミニアルバム『you love』より。
静かな曲調もいい。
こういう曲は夜静かな部屋でひとりで聴くのがよさそうだ。
羊文学 『ラッキー』 2021年3月17日
2021年3月にデジタル配信された曲。
2020年から2021年の今年にかけてはライブもほとんどできなかっただろうから、ネット配信に活路を見いだそうとしたアーティストも少なくなかったはずだ。
けど、生でライブを聴くと、やっぱり生じゃないと気づかないことや分からないことがたくさんあるなと痛感する。ライブは聴くというだけでなく見るものであり、体感することだからだ。
たとえば、曲が始まる前に楽器を準備しているところとか、出番が終わったオフのところとか、曲の間のおしゃべりとか、現地のその場でしか知り得ないこともたくさんある。
羊文学 『ghost』 2020年12月9日
2ndフルアルバム『POWERS』の最後の曲。
『POWERS』のトレーラーを聴くと全体的に静かな曲が多い。メジャーを意識してというより羊文学の音楽性が少しずつ変化していっているのかもしれない。
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