妊婦じゃないけど朱塗りの社殿に惹かれてとりあえず水天宮へ

東京(Tokyo)
水天宮-1

PENTAX istDS+smc PENTAX-DA 18-55mm(f3.5-5.6 AL), f7.1 1/25s(絞り優先)



 私はどういうわけか、朱塗りの神社に惹かれるものがあって、写真などで朱色の神社を見ると、わっ、これは行かなくてはいけないと反射的に思ってしまう。朱色という色が好きというよりも朱塗りの神社がどうやら好きらしいのだ。その理由は自分でもよく分からない。
 水天宮もそうだった。安産や子育ての神社として紹介されてるのをテレビで観て、御利益はともかくここは行っておかねばと強く思い込んだのだった。行くまでにしばらく時間がかかり、行ってきてからこうして書くまでにまた時間が経った。訪れたのは5月5日のことだったから、もう2ヶ月以上も前になる。特に意識的に温めていたとかそういうわけではない。
 水天宮は日本橋蛎殻町(かきがらちょう)にある。東京駅の1キロちょっと東だ。安産祈願の神社として東京では特に有名なようで、水天宮は地下鉄半蔵門線の駅名にもなっている。地下鉄の駅を上がってすぐに位置していて、交通紹介では徒歩0分と説明される。0分ということはないけど、確かに1分はかからない。
 周囲はオフィス街というのかビル街というのか、交通量も人通りも多くて、ザワザワしている。完全な街中にあって、神社特有の静けさとは一切無縁だ。こんなところにあったんだと驚いた。
 それでも水天宮前では駄菓子屋風のおみやげ物屋さんが今も粘り強く商売をしている。周囲の光景とはおよそミスマッチだけど、がんばってる感じに好感が持てる。この一角だけは昔からあまり変わってないのだろう。その間に周りがどんどん変わっていってしまった。

水天宮-2

 駄菓子屋に気を取られなければ、歩いて30秒で水天宮前に到着する。しかし、これはまたすごいロケーションだな。一応参道になるのか、階段を上がったところに境内があって、この真下は地下駐車場になっている。妊婦さんが多いということで、地下の駐車場からはエレベーターに乗って境内に昇れる仕組みになっているというから気が利いてるというか、けっこう斬新だ。
 日枝神社のエスカレーターといい、水天宮のエレベーターといい、現代東京と神社仏閣の共存ぶりが面白い。ビルの屋上に寺社があったりもする。

水天宮-3

 ここは基本的に子供関係のお参りに来る人がほとんどなので、大多数は夫婦だったり家族連れだったり主婦だったりする。他の神社とはずいぶん雰囲気が違う。メンバーは子度向けの遊園地のような顔ぶれだ。
 毎月5日は東京三大縁日の一つとされる縁日があって、子供の日だったこの日も大勢の人で賑わっていた。ただ、通常並ぶという露天などはなかったから、それは子供の日で休みだったのかもしれない。
 水天宮が最も賑わうのが、戌の日(いぬのひ)だ。年ごとに干支があるように、毎日干支に当たる日があって、戌の日は12日に一度やって来る。犬は子だくさんでお産も軽いことから、昔から安産の守り神とされてきた。これが土日に当たると境内は妊婦さんで溢れかえり、えらいことになる。入場制限が行われて、行列は駅の出口まで続くのだとか。少子化などどこ吹く風で、この日の水天宮は世界で一番妊婦さんの集まる場所となるであった。いつが戌の日に当たるかなんて意識して生活してないけど、水天宮にはうかつに行っていけない日というのがある。戌の日に祈祷を受けられるのは妊婦さんだけとなる。

水天宮-4

 そうそう、この朱色とグリーンがぐっと来る感じ。これがいいんだよねぇ、と心の中でつぶやく。前世的な因縁があるのかどうなのか、朱色がイカしてると思うのだ。自分の好みに合うエクステリアというのか、自分が神社を造ったとしたら絶対朱色をシンボルカラーにするに違いない。心落ち着く感じでもあり、しっくり来る感覚でもある。
 朱色をイメージカラーとする寺社は多い。たとえば八幡宮がそうだ。けど、必ずしも源氏カラーというわけではなく、厳島神社や平安神宮もそうだ。伊勢神宮は違う。朱色はお稲荷さんの色でもある。だから、特にどこの誰のイメージカラーというのではない。中国から伝わった色なのか、日本独自の色なのか。

 水天宮というと今でこそ安産や子授かりの神社として知られているけど、もともとは平家を祀るための神社だったことは忘れられがちだ。
 世の中が平家の時代から源氏の時代に移り変わろうとするとき、平清盛の血をひく安徳天皇は源氏に追われ追われて西へ西へと逃げ延びいて、とうとう壇ノ浦で進退窮まって船から身を投げて命を落とすことになった。祖母の二位の尼に抱かれ、母の建礼門院と共に。ときに安徳天皇8歳のことだった。仕えていた女官の按察使局(あぜちのつぼね)も一緒に身投げしようとしたところを二位の尼に止められて、おまえは生きて私たちの霊を慰めよと言われ、更に西へ逃げ延びていった先が九州の久留米だった。そこに小さな祠を建てて、安徳天皇と平家一族の霊を慰める日々を送り、これがのちの水天宮の始まりとされる。
 江戸時代になり、この話を聞いた久留米藩二代藩主の有馬忠頼は、屋敷内に立派な社殿を建てた。現在でも水天宮の本家は久留米にある。東京水天宮は、のちの第九代藩主頼徳が参勤交代で江戸に住むようになったとき、久留米から分霊をして江戸の屋敷内(今の港区)に水天宮を祀ったのが始まりだ(1818年)。
 ここからどうして安産の神様となっていったのかは不思議なところなのだけど、いつからか屋敷にある水天宮のことが知れ渡るようになり、江戸町民たちにとっても信仰の対象となっていったのだった。ついには屋敷を五の日に限って開放するようになり、江戸っ子たちも参拝できるようになった。「恐れ入りやの鬼子母神」と共に「情けありまの水天宮」というのが江戸での流行語になったほどだった。
 明治4年(1871年)に、有馬家屋敷と一緒に赤坂に移ったあと、翌年に現在の日本橋に再び移り、今に至っている。
 祭神は久留米水天宮と同じく天御中主神、安徳天皇、高倉平中宮(建礼門院)、二位の尼となっている。安産、子授けの御利益が言われるようになったのは江戸時代になってからのことだ。水天という文字からか、水の守り神ともされている。

水天宮-5

 社殿の右には絵馬殿があって、古い額や絵馬などが奉納されていた。祈祷所はこの裏になるのだろうか(未確認)。絵馬殿は休憩所も兼ねていると思うのだけど、このときは何か大工仕事のような作業をしていて、木や板がとっちらかっていた。
 水天宮も関東大震災で倒壊してしまった神社の一つだ。御神体を隅田川の新大橋へ運んで難を逃れたという。社殿は昭和5年に再建され、現在のものは昭和42年に建て直されたものだ。
 境内には「安産子育て河童」や「子宝犬」の像があって、やっぱりお産関連一色となっている。絵馬も犬だ。

水天宮-6

 2枚古い写真が印象的だった。一枚は昭和44年、廃止される直前の都電が走っている古い日本橋の町並みで、もう一枚は例大祭のものすごい賑わいの写真だ。境内といわず道といわず、押しかけた人でびっしりと埋め尽くされている。すし詰めとはまさにこのことだ。水天宮は昔から流行っていたんだなぁと感心した。

水天宮-7

 境内には4つの末社があって、写真は中央弁財天だ。日本橋七福神の一つで、毎月5日と巳の日には扉が開いて弁天像を見ることができるらしい。
 そのほか、火と風の神「火風神社」、鎮火の神「秋葉神社」、雨の神「高尾神社」が入っている。水と火という相反する神が同居してるのが面白い。

 日本人の精神性のユニークなところは、とりあえずと言いながらも神社仏閣へ出向いていって神頼みのようなことをしてしまうところだ。正月には初詣に出かけ、受験といっては天神様へ行て絵馬に願いを書き、恋人ができますようにと縁結びのお願いをして、妊娠すると安産のお守りをもらいに行く。これは外国の信仰心とはまったく異質の日本人特有のものだ。なんでそんなことをするのかと外国人に訊かれても答えようがない。一応、しないよりしておいた方がいいだろうと思うから、とりあえずやっているだけだ。それは否定されたり茶化されたりすべきものではなく、むしろ個人的には強く肯定したいことだ。そうそう、参拝はしないよりしておいた方が絶対いいってと言いたい。神頼みというと他力本願的でよくないイメージがあるけど、自分や人間以外の霊力のようなものを敬うことは大切なことだ。神を信じるとかそういうことではない。世の中には自分の力だけではどうすることもできないことがたくさんあるということを自覚すれば、人間は謙虚になれる。
 お参りしてもしなくても悪いことが起きるときは起きるし、いいことがあるときはある。けど、参拝というのは墓参りと同じようなもので、形だけでもやっておけば安堵することだ。面倒だからこそあえてやる価値がある。苦労は誰のためでもなく自分のためにするもので、それはいつか何らかの形で自分に返ってくる。
 神の使いは神社にいる。街中にはいない。神は世界に偏在してるといっても、事務的な細々したことは神の使いがやっている。村のことを総理大臣に頼んでもらちが開かない。村のことは村長さんにお願いしないと。だから神社まで出向いていって顔つなぎをしておく必要がある。向こうの視点から見れば、自分のところに来た人間のことは何とかしてやろうと思っても、街を歩いてる人間の力になってやろうとは思わないだろう。
 何をお願いするでもなく、顔見知りになっておくことがいざというとき役に立つ。打算でも何でも、神社は行かないより行った方がいいのだ。とりあえずビールね的な感覚で、とりあえず神社でいこう。
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