何日か前にWOWOWで放映した『ステップ』(2020年公開)をなんとなく録画しておいて軽い気持ちで観始めたら、これはいけないと、20分くらいでいったん中断した。
それから3日ほど間を空けて再開したのだけど、やっぱりこれはいけなかった。完全にやられてしまった。
≪あらすじ≫
妻を亡くした30歳の健一(山田孝之)に、妻の両親が幼い娘・美紀を引き取ろうと提案するが、健一は自分で育てることを決断。亡き妻との思い出のある家で、育児に励む日々が始まる。健一はシングルファーザーとしてさまざまな壁にぶつかりながら、子育てに奮闘する。
あらすじだけ読むと、自分とはまったく立場の違う人物を主人公とした作品で共感する要素はほとんどないように思うのだけど、映画を観るとどういうわけか我が事のように思えてしまう。身につまされるという表現は少し違うけど、そうであったかもしれないもうひとつの人生を疑似体験しているような感覚に陥る。
シングルファーザー目線というだけでなく、ときに娘の気持ちに思いをはせ、義理の両親との関係や再婚相手のことでこちらも悩んでしまったりする。
それぞれの年代を演じた3人の娘役の子はどの子もかわいくて上手だった。自分が父親だったら毎日幸せを感じるだろうなと想像しつつ、もちろん日々は楽しいことばかりではなく、親としても子供としてもすべてが思い通りにいくわけではない。
はっきり言うと、これは楽しいお話ではない。必ずしも幸せな気持ちになるわけでもないし、感動したという言い回しも違うと思う。
それでも、観終わってから世界の見え方が少し変わっていることに気づく。観る前よりも優しい気持ちになれた。
人と人とのつながりが希薄になっている今だからこそ胸にしみる。
そして、ずしんとこたえる。
原作(2009年)は重松清。
重松清は縁がなくて、これまで作品を読んだことがない。泣ける小説という評判を見聞きして意識的に遠ざけていたところもある。
ドラマの『流星ワゴン』はよかったから、食わず嫌いだけともいえる。
今回でだいぶ認識も変わったから、これからはもう少しドラマや映画を意識的に追いかけてもよさそうだ。
監督は飯塚健。
こちらもこれまで縁がなくて作品はたぶん観ていないと思う。
『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』や『虹色デイズ』などの作品は聞いたことがあるような気がするけど観ようとは思わなかった。
山田孝之についてはドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』がとてもよかった印象が残っているものの、その後、おかしな方向へ行ってしまった感じがして遠ざかっていた。
本来はこうした”普通”の青年や男性役ができる役者に違いない。
子役3人の中では小学校低学年を演じた白鳥玉季が特に印象に残った。
ドラマ『テセウスの船』に出ていたあの子ということを後から知って、なるほどと思った。
後に再婚相手となる(ネタバレです)広末涼子はどうかなと思ったのだけど悪くなかった。
それと、義理の父親役の國村隼が抜群だった。実の父親ではなく義理の父親という距離感の演じ方はさすがだ。
少しだけ残念に思ったのは、主題歌にせっかく秦基博を起用したのに、楽曲の『在る』の出来がもうひとつだった点だ。
秦くんは多くの名曲を作っているから、もっといいのができたんじゃないかと思った。たとえば映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌の『ひまわりの約束』とか。
この映画は泣かせることを目的としたお涙ちょうだいではない。登場人物たちの心情を丁寧に描くことで観る者が勝手に感情移入して泣くだけだ。
ときどき、こみ上げてくる感情を抑えきれない。
今はレンタルだけでなくネット動画など観られる手段もいろいろあるので、機会があればぜひ観てみてください。
日本映画の底力を久々に知らしめた作品といっていいんじゃないかと思う。
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