東慶寺で鎌倉一の美女と緊張の初デート

鎌倉(Kamakura)
6月の東慶寺-1

PENTAX istDS+smc PENTAX-DA 18-55mm(f3.5-5.6 AL), f9 1/12s(絞り優先)



 ゴールデンウィークにも行った東慶寺へ今回もまた行ったのには理由があった。それは、普段は入ることができない水月堂で、水月観音(すいげつかんのん)を見せてもらう予約を入れてあったからだ。前回はそんな観音さまがいることさえ知らず、帰ってきてから知って、見られるものならぜひ見てみたいと思っていた。鎌倉一の美形仏ということで知る人も少なくないだろう。ツレが電話をしてみたところ、わりとあっさり約束を取り付けることができた。それはもう行くしかあるまい。
 ということで、我々は再び、松ヶ岡東慶寺の石段を登ることになった。はやる気持ちを抑えつつ、駆け込むように入口に向かった。それじゃあ早速水月観音を、と思ったら時間が早すぎた。2時半の約束が、遅れちゃならないということで焦って2時に着いてしまった。あんまり早く行っても向こうにも都合というものがあるだろうということで、まずは境内を見て回ることにした。ひと月経てば花の顔ぶれもガラリと変わっている。

6月の東慶寺-2

 アジサイも少し咲いていた。でもここはアジサイ名所ではないので、人は少なめ。アジサイを見に来てついでに寄ったという人が多かったんじゃないだろうか。
 私たちはといえば、水月観音と約束の時間が気になって気もそぞろで、アジサイなんてのんきに撮ってる場合じゃなかったのだ。気持ちがそわそわして落ち着かない。早く約束の時間が来てくれないかと願うばかり。なんだか、初デートの待ち合わせみたいだ。

6月の東慶寺-3

 ちょっとしたハナショウブ苑もあった。ハナショウブは5月の花だから、もうだいぶ終わりかけていた。
 ハナショウブとアヤメとカキツバタの見分けは、だいぶできるようになった。アヤメは模様があって、カキツバタは花の根本の線が白で、ハナショウブは黄色だ。ただ、ハナショウブの元となったノハナノショウブとは区別がつかない。
 ハナショウブは江戸時代後半から品種改良がさかんになって、現在は2,000種類以上があるんだそうだ。これもバラやアジサイと同じくディープな世界で、ついていけない。
 主に江戸系、伊勢系、肥後系の3系列に分けられていて、三英、六英、八重咲きなどの花の形(花容)と、平咲き、深咲き、垂れ咲き、玉咲き、爪咲き、台咲きなど咲き方によってもそれぞれ品種があるのだとか。色も紫からピンク、白、水色などあって、模様にも名前がついていて、とにかくややこしい。花を見て名前を当てるということではバラよりも数倍難しそうだ。花菖蒲の父といわれた幕府の旗本、松平左金吾の名前だけはせめて覚えておこう。

6月の東慶寺-5

 東慶寺の花で有名なものの一つに、イワタバコ(岩煙草)がある。奥の切り立った岩場に張り付くようにして咲いている。けっこう珍しい花だから、これだけを目当てに訪れる人も多いに違いない。
 みんな上を見上げてる姿がなんとなく間抜けっぽいけど、自分自身も必然的にそうなってしまうので人のことは言えない。それぞれが口を開けて眺めたり、写真を撮ったりしている。むち打ちの人は見られない。

6月の東慶寺-6

 遠くから見ると地味でも近づいてみると、紫の星を散りばめたように群生していてきれいだ。私も写真では見ていたけど実物を見るのは初めてだったのでけっこう感動した。しばし水月観音のことを忘れる。
 東北以南の本州、四国、九州、台湾などの谷間の湿った岩場などに自生している。
 名前の由来は、葉っぱが煙草の葉に似ているからだ。でも煙草にはならない。若葉は食べられるところから、山地では昔からイワナ(岩の菜)と呼ばれて山菜扱いされていたそうだ。その他、ヤマジシャ、イワジシャ、タキナなどの別名もあって、万葉集にも登場している。

6月の東慶寺-7

 高さは10センチから20センチくらいで、花は1センチから1.5センチくらいとけっこう小さめだ。決して派手な花ではない。葉っぱは通常15センチくらいのものが大きくなると50センチにもなったりするそうだ。
 花の形といい、紫の色といい、こんなきれいで可憐な花が岩場にくっつくようにして咲いているというのも不思議だ。紫も他の花にはないような色合いで、野生種とは思えない。透明感のある花びらは蝋細工のようだ。
 そうこうしてるうちに約束の2時半が近づいた。再びちょっとドキドキのビクビクもので入口近くの門へ行き返した。

6月の東慶寺-8

 入口すぐの右側にある門を通って、入口の鈴を鳴らしてくださいとのことだったので、白木の門をおそるおそる開けて、腰をかがめるように入っていく我々。ちょっと不審人物っぽい。これでいいのかなぁと、思い切って呼び鈴のヒモを引っ張ると、カーン、カーンと大きな音が響いて、中からハーイという女性の声がした。どうぞー、というので、ごめんくださいと言いつつ扉を開けると、奥から出てきた女の人が出迎えてくれた。2時半の方ですね、はい、そうです、どうぞおあがりくださいと、話はトントン拍子で進んで、戸惑う間もなく、こちらですとずんずん歩いていくのに急ぎ足でついていく私たち。わー、待ってくださいー、と心の中で呼び止めつつも、いきなり本殿に向かって拝んでいる人の前を横切っていくことになってちょっとひるむ。事情を知らない人は、おいおい何事だあいつらと思ったんじゃないだろうか。
 水月堂の中は思いのほか広く、水月観音は一番奥の部屋に置かれていた。こちらです、どうぞごらんになってください。そう言われて顔を上げると、おおー、まさに水月観音だ。写真で見たときの印象そのまま静かに鎮座していた。手渡された線香を供えて、まずは手を合わせる。こんにちは、水月観音さん、会いに来ましたよ。
 実際、この仏さんは実に美しい。繊細な細工の彫りと観音様らしいふっくらした顔のバランスが絶妙で、思わず見入ってしまう魅力がある。神々しいというよりも、芸術作品としての美しさが先に来る感じだ。
 水辺に坐って水面に映る月を眺めているところから水月観音と呼ばれているこの仏さんは、憂いているようでもなく、微笑んでいるようでもなく、ただ静かにうつむいてる。見る角度によっても違って見える。女性的だったり男性的だったり、優しかったり厳しかったり。私は右斜め上からの角度が一番美しいと思った。
 これはちょっと仏像に目覚めてしまったかもしれない。これまで仏像に関しては特に思い入れもなかったのだけど、今後は神社仏閣へ行ったときは、仏像も要注目だ。年の一度の開帳の日とかにも出向いて行ってしまいそう。
 いや、いいものを見せていただいた。実際に見ていた時間は10分もなかったかもしれないけど、それ以上に長く感じた。ちょっと時間が止まったような感覚で。そろそろおいとましようかとツレと顔を見合わせて、拝観料300円を置いて立ち去ることにした。案内してくれた女性が後ろで控えているので、あんまり長居してもいけない。いやー、どうもありがとうございました。またいらしてくださいね、一度みえた方は二度三度といらっしゃるんですよ、などと言葉を交わしつつ、またもや本殿の仏さんの前を横切って、参拝者に注目を浴びつつ玄関へ向かうことになった。でも、そこが廊下になっているから仕方がない。
 一歩外で出ると、一気に緊張感が解けて、思わずため息が漏れてしまった。大事なひと仕事終えたみたいにどっと疲れが出た。自覚してる以上に緊張のご対面だったらしい。
 残念ながら写真撮影は禁止ということで写真は撮っていない。なので、ぜひ足を運んで自分の目で見て欲しい。拝観は予約の電話さえ入れれば難しいものではない。お寺の行事がない時間帯なら、特に制約はないようだ。当日、鎌倉に着いてからの電話ではちょっと無理かもしれないので、前日までに問い合わせた方がいい。なんせ鎌倉一の美女と会うのだ、事前予約は当然というものだろう。お嬢様にいきなり電話して、おう、今ヒマか? だったら今からちょっと行くからな、なんて乱暴な口をきいたら、たとえ時間があっても会ってはくれまい。

 鎌倉のアジサイもそろそろ終わりが近づいたようだ。私たちが行ったのはまだ一週間前だというのに、なんだか遠い日の出来事のように感じる。遠い夢物語のように。あの日はたくさんアジサイを見て、水月観音を見て、よく歩いて、日焼けもした。もはやなつかしい気さえする。
 今回のブログ鎌倉編も残りあと一回の番外編だけとなった。そろそろ気持ちを次の花、次の場所へ向かわせないといけない。今度はどこへ行こう。
 鎌倉もまだ行くところが残っている。江ノ島や、源氏山や、金沢街道など。鎌倉文学館も今回行こうとして行けなかった。夏場は歩き回るのはきついから、秋になってからか。紅葉の鎌倉もきっといいんだろうな。鎌倉に対する得体の知れない恐怖感のようなものはもう消えて、今は近しい場所になった。だからまた行こう、鎌倉。
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コメント
  • 仏像といえば
    2007/06/24 11:13
    仏像といえば

    みうらじゅんを思い出しますw

    撮影禁止がじつにうらめしい日記でした

  • 次はオッスさんの極楽寺駅へ
    2007/06/25 05:41
    ★オッスただときさん

     こんにちは、オッスさん(笑)。

     仏といえば、みうらじゅんですね。
     私も今回の鎌倉行きの前に、みうらじゅんといとうせいこうの『見仏記』を読んでいったのでした。パート2の方に、東慶寺の水月観音が登場するらしいんですよ。でも、それは行ってきたあとの方がいいかなと思って読まずに行きました。
     写真を載せられたらよかったんだけど、残念でした。秘仏とかじゃないから、頼めば撮らせてくれたかもしれないんですけどね。

     次に行ったときは、オッスさんの舞台となったら極楽寺駅も行かなくては。
     当時は廃線寸前になっていた江ノ電を、あのドラマが救ったんですってね。連日の大賑わいだったとか。
     ドラマの頃とあまり変わってないそうだから、写真も撮ってきます。
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