
OLYMPUS E-M5 + Panasonic LEICA 25mm F1.4 / OLYMPUS 9-18mm
今日は中川区にある松重閘門(まつしげこうもん)を紹介したいと思う。このブログにも過去に三度ほど登場しているのだけど、そのときはちらっと触れただけで成り立ちなどについては書かなかった。そもそも閘門(こうもん)って何? という人もいると思うのだけど、その前に名古屋の運河の歴史について簡単に説明することにしたい。
名古屋城の外堀と熱田の湊とを結ぶ堀川は、名古屋城築城の際に人や物資を運ぶために作られた人工の川だ。徳川家康の命による天下普請で福島正則が担当した。文句たらたら愚痴をこぼしながら作業していた福島正則に、そんなに嫌なら国に帰って戦の準備でもしていろと加藤清正に説教を食らったというのはよく知られたエピソードだ。その後、明治初期に庄内川と結び、名古屋港ができると名古屋港まで延長して現在に至っている。
その堀川の西を平行に流れている中川運河は、もともとは自然の河川だった。現在、あおなみ鉄道のささしまライブ駅がある場所は、かつて国鉄の笹島駅という国鉄の貨物駅があった。明治の終わりから大正、昭和初期にかけて大量の物資を運搬する必要に迫られたことから、中川を大がかりに掘り返して運河にすることが決まり、昭和7年(1932年)に中川運河は完成することになる。笹島駅と名古屋港を結ぶ物資運搬は、主に中川運河を利用した船が担っていた。
更に利便性をよくするために中川運河と堀川を水路でつなぐことになったのはいいのだけど、ここでひとつ問題があった。堀川の方が水位が1メートル以上高かったのだ。そのまま結んでしまうわけにもいかず、ここで登場するのが閘門だ。パナマ運河に代表されるように、水位が違う水路を両方扉でふさぎ、片方を開けて水位を上げ下げし、水位が揃ったら開けた方を閉じて、閉じていた方を開けて船を通す。これが閘門の仕組みだ。松重閘門の通過時間は20分ほどだったという。
松重閘門のユニークなところは、扉式の閘門が多かった日本では珍しく、尖塔を両側に配した上下動式を採用した点だ。尖塔の中には扉を上下させるための錘(おもり)が入っていて、それを動かして開け閉めしていた。
設計を担当したのは、のちに名古屋市役所の庁舎を設計することになる名古屋市役所土木建築係の藤井信武だった。あえて尖塔を持つ上下動式にしたのは、この塔をシンボルタワーにしようとしたためではないかともいわれている。当時の名古屋は、中川以外にもいくつかの川を運河にする大運河計画があり、松重閘門はその交差点となる場所に位置していた。運河計画はその後の戦争などもあり実現しなかったのだけど、高い建物などほとんどなかった昭和初期の名古屋ではこの尖塔はよく目立ったに違いない。水上の貴婦人とも呼ばれたという。
しかし、松重閘門が運用された時期はさほど長くはない。戦争を挟んで昭和30年代、40年代に入ると輸送の主役は鉄道から車へと移り変わり、中川運河を利用する船も数を減らしていった。
昭和43年(1968年)に松重閘門は閉鎖。尖塔も取り壊されることとなる。
このとき立ち上がったのが名古屋市民で、保存を求める活動が認められ、尖塔はそのまま残されることとなった。
昭和61年(1986年)には名古屋市の有形文化財に指定され、平成5年(1993年)には名古屋市の都市景観重要建築物等に指定された。平成24年(2012年)に行われた第1回名古屋まちなみデザインセレクションでは市民投票で20選のうちのひとつに選ばれている。
新幹線の車窓からも見えるから、県外の人でも姿は見たことがあるという人も多いかもしれない。

高さは約21メートル。鉄筋コンクリート造りで、一部に花崗岩が使われている。
久しぶりに間近でしげしげと見て、こんなにきれいだったかなぁと思う。
それもそのはず、2008年から修復耐震工事が行われて、中川運河側の西塔が完成したのが2009年で、堀川側の東塔の完成が2011年。私が初めて見たのが堀川クルーズのときで2010年だった。そのときは西塔はきれいで東塔は薄汚れていたから、2つの塔は作られた時期が違うのかと思ったのだった。なので、両方の塔がきれいな状態を見るのはこれが初めてだったのだ。
閘門周辺を親水広場にする計画があるらしいのだけど、それは手つかずのままなのだろうか。西塔の下に小さな公園があるだけなのは以前訪れたときから変わっていない。
夜間は日没から21時までライトアップされる。
塔の中には展望台があるそうだから、年に一度くらい一般公開したらどうだろう。一度に見られる人数が少人数すぎて無理というなら抽選にすればいい。
せっかく魅力的な建物なのだし、ただ保存しておくだけではなくて、もう少し何か活用できればいいのではないかと思う。堀川クルーズも楽しかったから、また復活させてほしい。

中川運河側の西塔。

左下に写っているのは松重ポンプ所。

少し西の日置橋からの眺め。
塔の間を名古屋高速の高架ができる前は4本の尖塔を一緒に見ることができたそうだ。
ここから後ろを振り返ったすぐのところを東海道新幹線と東海道本線、中央本線、名鉄名古屋本線が平行して走っている。車窓からの眺めはこちらからのものだ。