羊をめぐる冒険へと旅立った私は羊迷路に迷い込む 2006年11月13日(月)

動物(Animal)
ヒツジをめぐる考察

OLYMPUS E-1+Super Takumar 200mm(f4), f5.6, 1/320s(絞り優先)



 羊。この文字や呼び名や響きから何を連想するかは、人それぞれなかり違いがあるんじゃないだろうか。日本人にとっては近くて遠い、遠くて近い羊という動物は、実に多様性を持った生き物だ。羊の姿を見て、わー、暖かそう、と思うのが普通の人。わー、美味しそうと思うのが食いしん坊。北海道の人は、なまら暖か旨そうだべ、とでも思うのだろうか。
 羊にまつわるものを思いつくままに挙げていくと、とりとめがない。ウール、マトン、ラム、ジンギスカン、迷える子羊、牧羊犬、牡羊座、未年、カウント・シープ、「メリーさんのヒツジ」、『羊たちの沈黙』、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』、羊の皮をかぶったオオカミ、ひつじ雲、羊皮紙。
 羊が入った漢字もたくさんある。大きな羊で美しい。羊に君で群れ。羊と食べるで養う。洋、鮮、犠、遅、善などなど。
 羊羹(ようかん)は何故羊かというと、中国では羊の肉の汁物を羊羹と呼んでいて、それが鎌倉時代に禅僧によって日本に持ち込まれたとき、肉食はできないので代わりに小豆などで代用した。それをそのまま羊羹と呼んで、のちにそれが甘みをつけた和菓子となっていったのだった。羊羹が羊を使った料理として紹介されていたら、日本での羊羹の今の地位はなかっただろう。
 ちょっとした雑学としては、テニスのガットはかつて羊の腸から作られていた、というのがある。ガット(gut)はそのまま腸という意味だ。現在でもナチュラルガットを扱っている店が日本にあるのかどうか分からないけど、性能はかなりいいらしい。一般に使われているのは様々な人工製品によって作られているからストリングス(string)と言うべきところが、今でもテニスをする人の多くはガットという言葉を使っているのは面白い。クラシックギターでガットギターというのも昔あったそうだ。それから忘れちゃいけないウィンナーの皮、あれも羊の腸だ。
 ちなみに、眠れないとき羊の数を数えろというけど、あれは日本人はダメだ。count sheepは英語圏の文化で、眠るsleepと羊のsheepをかけたシャレのようなものだから。それと、シープという発音の呼吸が眠りにつくのに適しているとも言われている。ワン・シープ、ツー・シープ、スリー・シープ、というように、リズムがいい。日本語のヒツジがいっぴき、ヒツジがにひき、なんて口に出して言ってみるとすごくリズムが悪い。だから、眠れないときは英語で羊の数を数えなければならない。
 私たちにとって実はこんなにも身近な羊たち。さあ、そんな羊をめぐる冒険の旅へ出よう。って、前置き、長っ! ここまではまだイントロだったのか!?

 羊という動物について、私たちは意外と知らない。牛、馬、豚、ニワトリなどと比べて目にする機会が断然少ないというのもあるだろう。日本のテレビに羊はめったに出てこないし、動物園に羊っていただろうか。ほとんど印象にない。たぶん、いるところにはいるのだろうけど。個人宅で羊を飼ってるところも最近ではめっきり少なくなった。昭和20年代までは日本の農家ではかなり飼っていたそうだ。うちの父親も田舎の家で羊とヤギを飼っていたと言っていた。私が見たのは愛知牧場だった。最近では牧場あたりまで行かないと羊を見ることができないのかもしれない。
 世界ではどうかというと、羊というのはかなりポピュラーな家畜として確固とした地位を築いている。オーストラリア、ニュージーランド、南アメリカなどを中心に、10億頭以上が飼育されているというからすごい数だ。世界中の羊を日本に連れてきたら、列島に乗り切らない恐れがある。中国人だって13億人しかいないのだから、羊は中国人並みに世界に満ちあふれていると言えるのだ。
 人類と羊のつき合いも長い。最初に野生の羊を家畜化したのは、今から1万1,000年ほど前のイスラエルだったと言われている。人類初の家畜は羊と言えるかもしれない。野生の羊は毛がそんなにふさふさなわけではないため、当初は肉や毛皮などが目的だったのだろう。
 それにしても羊は人間にとっておあつらえ向きだった。性格はおとなしく、一頭のリーダーを中心に群れで行動する習性があるから、人間はその一頭のリーダーを手なずけてしまえば自分がリーダーにとって変わることができた。そうなると、人間ひとりで数百頭の羊の群れをあやつることができる。それが羊飼いであり、牧羊犬というわけだ。
 以来、羊は人間にとって都合がいいように様々な品種改良がなされてきた。現在でも300種類以上(800種類という話もある)、人類史の中では3,000種類以上の羊が生み出されたと言われている。羊の種類などほとんど知らないのが普通だけど、メリノ種あたりはちょっと有名だ。その他、サウスダウン種、リンカーン種、レスター種、ロムニー種、コリデール種、サウスダウン種、サウスサフォーク種、ジャコブ種などがある。
 世界の一部では今でも野生の羊がいる。これはちょっと意外だった。野生の羊というのはイメージにない。アメリカ北部やカナダ北部、アラスカ、アフガニスタンやパキスタンあたりにいるそうだ。

 動物としての羊は、偶数の蹄(ひづめ)を持つ偶蹄類で、所属としては牛の仲間になる。
 大きさは種類によって様々で、小さいもので高さ40センチくらいから大きなもので80センチくらいまで。体重は30キロないものもいれば150キロ以上になるものもいる。
 4室に分かれた胃をもつ反芻動物で、角も2本持っている。メスの角は短く、オスのは大きくてねじれている。
 基本的には草しか食べない。その点は木の実などを食べる雑食性のヤギとの違いだ。しっぽも本当はある。
 寿命は20年くらいだそうだ。

 もともと日本にはいなかった羊が初めて日本にやって来たのは、599年で、百済から推古天皇に2頭贈られたのが始まりだった。ただ当時は単なる珍獣扱いで、それから長きにわたって羊は日本では定着しなかった。中国から入ってきた十二支にも羊(未)はいるのに、ほとんどの日本人にとって羊というのは見たことも聞いたことない幻の生き物だった。実在してると知っていた人の方が少なかったかもしれない。それゆえ、羊に関することわざや昔話などはほとんどない。羊を詠った歌なども私は知らない。
 毛織物のために羊を本格的に導入したのは、明治になってからだった。更に本格的に飼育されるようになるのは、昭和に入ってからだ。特に戦前、防寒具などの原料にするために本格的に導入された。世界と羊のつき合いは古くても、日本人と羊のつき合いはかなり浅いものだったのだ。
 現在の日本で羊毛のためにたくさんの羊を飼っている農家はどれくらいいるのだろう。よく分からないものの、やはり多くは肉用なのだろう。北海道では何かっていうとジンギスカンだし、近年羊の肉は健康にいいと言われるようになって消費も増えてるようだ。それでも自給率は10パーセントあるかないといったところらしい。
 羊肉のラムとマトンの区別は、簡単なようでちょっとややこしい。一般的に1歳未満の子供がラムで、大人がマトンとなるのだけど、マトンは2歳以上の羊のことだ。じゃあ1歳から2歳のことは何と呼ぶかというと、ホゲットというらしい。ただ、日本ではこの名前は使われず、1歳以上はマトン扱いになるとか。その他、もっと細かく月齢でホットハウス、スプリング、イヤリングなどと分けることもあるらしい。更に、国によってラムとマトンの区別の仕方が違っていたりして混乱しがちだ。でも、そこまで羊の区別を知っていたからといって、この先の人生のどこかで役に立つシーンがあるとも思えない。ラム肉を注文して、これはきっとスプリングだね、などと彼女の前でカッコつけても、彼女はポカンとするだけだろう。
 ジンギスカンで使うマトンは少し匂いにクセがあるというから、私は食べられるかどうか。まだ一度も食べたことがないのでよく分からない。北海道へ行ったとき、食べてみよう。

 以上が羊をめぐる冒険の始まりでした。近くて遠かった羊が少しでも近づいたのであれば、それは幸せなこと。それぞれの中で、羊の旅をこれからを続けていってください。私の中では今、レミオロメンの3月9日が流れている。
 ♪青い空は凛と澄んで
  羊雲は静かに揺れる♪
 村上春樹が生み出した羊男はどこへ行ってしまったのだろう。迷える子羊はいつまで迷えば探しに来てくれるのか。クローン羊のドリーはどうなったんだろう。いろんな羊が浮かんでは消え、消えては浮かび、どれを追えばいいのか分からなくなった羊飼いのようになってしまったのだった。そして、道に迷った私は、羊神社へとたどり着くこととなる。
(つづく)
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