
OLYMPUS E-1+Super Takumar 200mm(f4), f5.6, 1/200s(絞り優先)
カバの背中に乗って水上を行くとこんなふうに見えるんじゃないかと思う。いや、もちろん、カバの背中に乗って写真を撮ったわけではない。望遠レンズで至近距離から撮ったらこんなふうになっただけだ。世界広しといえども、カバの背中に乗せてくれるサービスを行っている動物園はおそらくないと思う。野生のカバに乗るのはムツゴロウさんでも難しい。カバは見た目以上に凶暴で強いから。
こいつは、カバはカバでもコビトカバという非常に珍しい種類のカバだ。世界四大珍獣の内のひとつに数えられ、150年ほど前に初めて発見されるまでUMA扱いの動物だった(Unidentified Mysterious Animal=謎の未確認動物) 。もう少し発見が遅れていたら「特命リサーチ」で特集されていたかもしれない。早くビッグフッドも見つけて欲しいぞ。
日本での飼育もごく限られていて、現在は名古屋の東山動物園、東京の上野動物園、和歌山の南紀白浜アドベンチャーワールドでしか見ることができない。数年前、鳥羽水族館に移されたものは残念ながら事故で死んでしまった。
というわけで、なかなかお目にかかれないだけあってごく一部では人気者となっている。一般的には人気以前に知名度が低い。私がこいつの写真を撮ろうと長いことプールの前で粘っていたら、何かいいものがいるのかと入れ替わり立ち替わり人が近づいてきて、小さなこいつをひと目見ると、なんだカバか、という捨てゼリフを残して立ち去っていったことからもそのことがうかがえた。世界四大珍獣を、ジャイアントパンダ、ボンゴ、オカピ、コビトカバとスラスラ答えられる人もそうはいないだろうから無理もないことなのだけど。
アフリカの西にあるリベリアのジャングルで1841年(1844年という説もある)に初めて発見されたコビトカバは、当初カバの変種くらいにしか思われていなかったらしい。カバとはかなり違うから発見した時点で分かりそうなものなのに、そうでもなかったようだ。
何しろ生息数が少なく、おまけに現地の人間が捕まえて食ってしまったりしていたから、その生態がよく分からなかった。その後も捕獲や密猟などでますますその数を減らし、現在は保護区以外のものは絶滅してしまったのではないかと言われている。なので、野生での生態はいまだに謎の部分が多いようだ。
一番の特徴としては、通常のカバに比べて10分の1ほどの大きさしかないということがある。それがコビトの名前の由来となったのだけど、普通のカバが体長4メートル、4トンにもなるのに対して、体長は170-180センチ程度で、体重も160-270キロほどにしかならない。カバは自分の重さに耐え難くなって水中を選んだけど、コビトカバは軽いので陸上を主な生活の場として選択した。走るとけっこう速いらしい。でも、東山ではずっとプカプカと浮いていた。野生では水中にいるとかえって危険なので陸にいることが多いけど、動物園は安全なので水の中にいたいのかもしれない。だって、オレ、カバだし、と彼は言うのだろうか。
研究が進むにつれて、こいつが普通のカバとは全然違っていることが分かった。頭は小さく、目は上ではなく横についていて、水中にいながら鼻だけで息をすることができない。足の指先には水かきもついてないので、泳ぎも得意じゃない。要するにカバのように水中生活に適してないのだ。なので、生活は水辺の森林や湿地帯ということになる。出産もカバが水中なのに対してコビトカバは陸上で行う。
いろいろな要素がカバよりも原始的なことが分かってきて、予測ではカバよりも500万年くらい前から地球上に生息していたのではないかということになっている。カバの祖先と言ってもいい。そのため、生きた化石という言われ方をすることもある。なんだカバか、とカバ呼ばわりされておしまいなやつじゃないのだ、コビトカバさんは。

それにしてもコビトカバさんは撮りづらかった。400mm換算単焦点の望遠レンズしか持ってなかったというものあるのだけど、ずっと背中だけ見せてプカプカ浮いて漂ってるだけで、なかなか顔をあげてくれない。ときどき思い出したように息継ぎのために顔を上げるものの、それもほんの短い時間でしかない。閉園時間は迫る。焦る私。そんな私の殺気(?)を感じて寄って来る人々。カバと分かって冷たい視線を浴びる私。そんな中でようやく撮れたのがこの一枚だった。それでも全体像がよく分からない。コビトカバの魅力をもっと充分お伝えしたかったのに。
ジャングルでは単独かペアで行動している。日中は水辺で過ごし、夜になると草原へ出て行って草や果物などを食べる。短いしっぽをぶるんぶるん回してフンをまき散らしながら歩き、それを道しるべにするそうだ。
動物園では、干し草や青草、りんごなどの果物をもらっていて、体が小さい分、カバのように大食いではなく、10キロほどだそうだ。
寿命は35年くらいで、上野動物園の37歳のトシコが死んでしまったため、現在は東山動物園の31歳の小次郎が最年長となったようだ。もしかしたら写真のこいつかもしれない(もう一頭いるからそっちかもしれない)。
小次郎は1976年にボルティモアの動物園からやって来たやつで、現在日本の動物園にいる5頭のうち3頭が小次郎の子供か孫なんだそうだ。
地球上のどこかには、まだ人類が知らない動物がけっこういることだろう。21世紀の現在でも、人跡未踏の場所はたくさんある。深海やジャングルや山の中や。特に中国の山中が怪しい。アフリカやアマゾンよりもむしろあっちの方が未開の地がありそうだ。
現在知られている動物でも、まだまだ謎は多く、今後新たな発見もどんどんされていくだろう。人に見つかることがその動物にとって幸せなこととは言えないだろうけど、びっくりするような新発見を期待したい。
珍獣とは言わず、まだ見たことがない動物がたくさんいる。世界四大珍獣だって、ボンゴとコビトカバは見たけど、パンダとオカピはまだ見たことがない。メジャーなものでも見たものより見てないものの方が圧倒的に多い。まずは見たいし写真も撮りたい。それで調べて、こうして書けば自分の中で親しみもわく。もうコビトカバだって他人じゃない。次に東山動物園のコビトカバのところへ行ったときは、奥さん、坊っちゃん、嬢ちゃん、これは世界四大珍獣のひとつでコビトカバっていう珍しい動物なんですよ、と自信を持って解説したいと思う。誰だ、あんた、みたいな目で見られても頑張ってアピールしよう。
そのうち、誰か他の人のブログで、東山動物園のコビトカバの前で熱く解説してる男の人がいましたという文章と写真が載ったら、それはきっと私です。コビトカバともどもよろしくお願いします。