ペリカンはひとり暮らしでも案外平気なのか? 2006年9月18日(月) - 現身日和 【うつせみびより】

ペリカンはひとり暮らしでも案外平気なのか? 2006年9月18日(月)

モモイロペリカンとおばさま

OLYMPUS E-1+Super Takumar 200mm(f4), f5.6, 1/125s(絞り優先)



 このシーンをファインダー越しに見つけたとき、あっと思った。それは、ペリカンがあまりにも大きかったからではなく、ペリカンをのぞき込んでいるおばあさまが私のばあちゃんにそっくりだったから。え? ばあちゃん、こんなとこで何してるの? と一瞬思ったほどよく似ていて驚いた。
 まあ、それはいいとして、今日はペリカンの話を少ししたい。写真のようにペリカンはかなり大きい。鳥ということを思えば巨大と言ってもいいだろう。体長は1.5メートル以上、体重は10キロもあり、翼を広げると3メートル近くになる。手長猿蔵(テナガザルゾウ)と呼ばれた私でさえ両手を広げても1.6メートルにしかならない。ペリカンとしては、四畳半一間のアパート暮らしでは狭くてやりきれない。家具を置いたら翼を広げることさえままならない。せめて六畳のアパートに越したいと愚痴をこぼすに違いない。
 こんな巨大なペリカンだけど、実は空を飛ぶ。それどころか、飛行はかなり得意な方だ。なんとなく飛べない鳥のように思っている人もいるかもしれないけど、大きな体に負けない大きな翼をバサバサと羽ばたかせて、長い距離を飛ぶことができる。野生のものは、寝床からエサ場まで、毎日数百キロの遠距離通勤をするやつもいるという。何年か前、北海道で突然ペリカンが姿を現して住民を驚かせたということがあったけど、あれは山口県で放し飼いされてたものが、白鳥の群れに混じって北上したものだった。
 飛ぶことだけでなく、泳ぎも得意だ。水かきが付いた大きな足で、泳いだり、潜ったりもできる。むしろ一番苦手なのが歩くことなので、動物園におけるペリカンは本来のよさをほとんど発揮できないということになる。よたよた歩いてる様子から、こいつ、やらないなと思いがちだけど、実際ペリカンはやるやつなのだ。侮ってはいけない。
 飼われているペリカンはとても人なつっこい。かつて山口県宇部市で幼稚園に通ってくるペリカンのカッタ君というのが話題になったことを覚えてる人もいると思う。園児に囲まれても平気というのは、相当に人が好きに違いない。よくできた大人でもつらいことなのに、その辛抱強さに感心する。その後人工ふ化させて育った子供ペリカンたちが今でも幼稚園や公園などで人気者になっているそうだ。
 写真の東山動物園のペリカンも人なつこさではなかなか負けてない。人が近寄っていくと自分から近づいてきて、オリの前をうろうろする。金網から手を入れたら触れるんじゃないかと思うほどだ。警戒心が弱いのか、賢いのかどちらなんだろう。

 南アジアからアフリカ、ヨーロッパにかけて、世界には8種類のペリカンがいる。ハイイロペリカン(中央アジア)、モモイロペリカン(アフリカ北部~東南アジア)、コシベニペリカン(東アフリカ)、オーストラリアペリカン(オーストラリア)、アメリカシロペリカン(北米)、カッショクペリカン(北米)、フィリピンペリカン(東南アジア)、ペルーペリカン(南米)たちが。
 日本にはもちろん野生のペリカンはいない。全国の何ヶ所かで野生化してるものは、元々飼われていたものが逃げ出したものだ。ただ、日本の環境には適すらしい。
 東山にいたのはモモイロペリカンだった。どうしてモモイロかというと、繁殖期になると体が桃色になるからだ。普段は写真のように白に近い薄ピンクをしている。英名はGREAT WHITE PELICANだから、向こうの人はこれを白と見たのだろう。
 ハイイロペリカンとはよく似ていて区別するのが難しいこともある。モモイロの方が少しピンクが強い。
 オスとメスは同じ体色で、見分けるポイントは、クチバシがやや曲がっているのがオスで、まっすぐなのがメスなんだとか。一緒にいるときなら区別がつくかもしれない。目の周りが黄色いのがオスで、赤いのがメスという違いもあるようだ。
 別名は伽藍鳥(ガランチョウ)。伽藍というのは僧侶が修行するような場所のことだけど、なんでペリカンが伽藍なのかはよく分からない。

 野生のものは、数十羽からときには数万羽の群れで暮らしている。これはおそらく大きな体を支えるためにはたくさんのエサが必要だということにも関係があるのだろう。この巨体なので素早くは動けない。だから集団で漁をする。U字型などに隊列を作って、水面を羽でバシャバシャしながら魚を浅瀬に追い込み、大きなクチバシでショベルカーのように水ごと魚をすくい取るという戦法だ。水だけ器用にはき出して、魚は丸飲みする。それはバーゲン時におけるおばさまの作戦に似たものがある。とりあえず抱えられるだけ抱えて、欲しいものは残していらないものは放り出していくというあの方法だ。ある意味理にかなっている。
 伸縮自在のノド袋には、水が15リットルも入るんだそうだ。2リットルのペットボトルを両手に2本ずつ持ってぶら下げて帰るのも大変なのに、それを7本も首にぶらさげることができるなんて、相当首と背筋が強いな。ペリカンを飼えば、買い物につき合ってもらって重いペットボトルをノド袋に入れて持ってもらえる。
 エサは魚や甲殻類で、一日1キロ以上の魚が必要という。動物園ではアジやホッケなどを与えているそうだ。魚類なら淡水でも海水でもかまわないらしい。しかし、一日1キロも魚介類を食べさせなければ行けないとなるとペットとしては大変だ。金銭的にもだけど、毎日1キロの魚を魚屋さんに買いに行くのもしんどい話だ。まとめ買いしようにも、そんなにたくさん冷蔵庫に入らないし。
 産卵は年に一度、一回に1個または数個で、集団で地上に巣を作る。きっと卵も大きいのだろう。ふ化までに約30日。生まれた子供は子供専用の場所(ポッド)に置き、半分消化した魚をクチバシにためてそこからエサを与える。
 野生の寿命は25-30年で、飼育下では50年以上生きることもあるそうだ。このへんも鳥離れしている。

 故郷では大勢の仲間と一緒に一生を過ごすペリカンたち。それが遠い日本という異国にやってきて、数羽で半ば放し飼いのようにされたとき、それまで眠っていた心の奥の欲求がわき起こり、ひとり遠くへ旅立ちたいと思うのかもしれない。千葉県の印旛沼にも、そんなカゴ抜けのペリカンが一羽いるという。始めて目撃されたのが1994年で、今でも元気にしてるということだから、10年以上のひとり暮らし歴ということになる。漁師さんの舟の上でよくたたずんでいて、漁についていって魚をもらったりもしてるそうだ。
 カンタ君と名づけられたそのペリカンは、ひとり何を思っているのだろう。人から見たら寂しそうに見えたりもするけど、本人はけっこう今の暮らしに満足してるのかもしれない。少なくとも、自分で選んだ人生というのは素敵なことだと思う。たとえ最初は他人の思惑から始まったらとしても、最後には自分で道を選ぶことが許されるというのは幸せなことだ。
 私たちもまた、カンタ君のように自らの意志で生きる場所や生き方を選びたい。私たちはカゴの中の鳥ではないのだから。たとえ翼はなくても走っていける。
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