
Canon EOS 10D+TAMRON SP 90mm(f2.8), f4.0, 1/25s(絞り優先)
世の中にはキツネの名を持つものがたくさん存在する。ワオキツネザルなどのキツネザルたちもそうだし、魚ではキツネアマダイやキツネベラなど、花ならキツネアザミ、キツネノボタン、キツネササゲ、人ならキツネ目の男など、他にもいろいろいる。
写真のこれは、キツネノカミソリという名前の花で、8月から9月にかけて、林や山道などのちょっと薄暗いようなところで唐突に固まって咲いてる。ふいに出会うと突然のオレンジに驚くかもしれない。オレンジのユリだと思ってしまう人もいるだろうか。
これってヒガンバナみたいだな、と思ったあなたはするどい。そう、ヒガンバナ科に属する、いわゆるリコリス(Lycoris)と呼ばれている花の仲間だ。東アジアには10数種類、日本にはこれとヒガンバナと、ナツズイセン、ショウキズイセンの4種類が自生している(シロバナマンジュシャゲ、アケボノショウキラン、オオキツネノカミソリも入れると7種)。
いずれも鱗茎という地下茎を持っていて、葉っぱが早春に顔を出し、初夏にいったん枯れて姿を消したあと、また夏の終わりに茎がニョキッと伸びてきて先端につぼみをつけ、花を咲かせる。この戦略は、夏に草刈りされても生き延びられるというメリットがある。草刈りおじさんのスケジュールまで計算に入れてるわけじゃないだろうけど。
キツネノカミソリとショウキズイセンだけが、鱗茎でも種子でも増えることができる。にもかかわらず、どういうわけかヒガンバナのような大群生になることは少ない。私が見たところでも、去年と同じところで同じくらいの数だけ咲いていた。あまり勢力を拡大しようという野心がない花なのだろうか。ただ、福岡や新潟あたりにはこれの大群落があるそうなので、必ずしも謙虚なばかりではないらしい。
近年は全国的にかなり数を減らしているという。
生息地は、東北の南から九州にかけてで、原産地は日本。
高さは30-50センチくらいで、いくつかの花がかたまって咲く。自分のところの国なんだから、もっと堂々かつ気ままに咲けばいいのにと思うけど、そんなものキツネノカミソリの勝手だ。
漢字で書くと狐の剃刀。名前の由来はもうひとつはっきりしないのだけど、葉っぱが剃刀の形に似ていて、花の色がアカキツネっぽいからそう名づけられたというのが一般的な説のようだ。もしくは、いきなり花を咲かせる様子がキツネに化かされたみたいに思えるからという説もある。キツネノカミソリという語感はいいけど、姿と名前は一致しないところがある。
西日本には、これよりも大きくて雄しべが飛び出しているオオキツネノカミソリがある。ごく稀に白花もあるという。そういえばヒガンバナにも白いやつがある。
葉っぱや根っこなどを食べると、下痢、吐き気、めまい、頭痛など、様々な症状を引き起こすらしいので、食べない方がいいと思う。って、誰が食べるか!

キツネつながりということで、こちらはキツネノマゴ(狐の孫)。これまた分からないネーミングだ。どのあたりがキツネなんだろう? 図鑑などを見ても、詳しいことは分かってないと書かれている。花の形はキツネに見えない。花穂の格好がキツネのしっぽに似ていて、花がすごく小さいからキツネの孫と呼ばれるようになったんじゃないかという推理は当たらずといえども遠からずかもしれない。
キツネノマゴ科というのがあって、日本では10数種類、世界では3,000種類以上あるというから、日本と世界ではこの花のグループに対する扱いはかなり違うようだ。熱帯などのものはもっと巨大で派手なので観賞用にされているという。
日本のキツネノマゴはとても小さい。腰を曲げて歩かないと気づかないくらいだ。草丈は30センチくらいで、花の直径は5ミリくらいしかない。普通は雑草として見向きもされないので、一般的にはあまり知られていないんじゃないかと思う。道ばたを歩いていて、あ! キツネだ! などと叫ぶと、どこどこ!? と周りが一斉にこちらを見て、しゃがんでキツネノマゴの写真を撮っていたら頭をはたかれる可能性があるので気をつけたい。名古屋あたりにキツネはいないけど、いたら嬉しい。
生息地は、本州から九州にかけてと、国外では中国、朝鮮半島からインドシナ、マレーシア、インドあたりと、けっこう広い。南の島には、キツネノヒマゴやキツネノメマゴなどといった変種もあるそうだ。
白い花も珍しくない。
花がごく小さいので、大きな虫は蜜を吸うことができず、写真のように小さなヒラタアブなどが受粉の役目を果たしている。
9月も半ばが近づいて、そろそろ各地からヒガンバナの便りが届き始めた。愛知県では、新美南吉のごんぎつねの里で有名な半田の矢勝川が一番のヒガンバナ・スポットとなっている。童話『ごんぎつね』の舞台となった川の周辺には、無数のヒガンバナが咲き、浦和レッズの応援団のようにあたり一面を真っ赤に染める。去年は9月30日で完全に出遅れたので、今年は20日くらいに行けたら行きたいと思っている。シーズンとしては9月の半ばから10月の始めにかけてだけど、ピークは案外短い。
岐阜県南濃町の津屋川というところも、写真を見ると雰囲気があってよさそだ。ただ、何しろ遠い。そこまでヒガンバナに思い入れはないので、たぶん今年も行けないだろう。
私のイメージとしては、田んぼのあぜ道に咲くヒガンバナこそが最もヒガンバナらしく思える。川の土手というのはちょっとイメージとずれる。いつか、飛鳥の田んぼに咲くというヒガンバナを撮りに行きたい。
それと、キツネと名の付く花だけじゃなく、本物のキツネもぜひぜひ見たいし、撮りたい。どこに行けば野生のキツネっているんだろう。愛知の山奥で、ルールルルルル、ルールルルルルという声が聞こえたら、私がキツネを探してるんだなと思ってください。
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