40年の時を経て今でも現役のPENTAX SPというオモチャ - 現身日和 【うつせみびより】

40年の時を経て今でも現役のPENTAX SPというオモチャ

PENTAX SP

Canon EOS 10D+Super Takumar 50mm(f1.4), f2.8, 1/60s(絞り優先)



 Takumarの50mm f1.4が欲しくて探していたら、PENTAX SP本体とセットで売っていたので、レンズ目的で買ってみた。ジャンク扱いで1,600円。実物を見てみたら、思ったよりきれいで壊れてるところもなさそうだ。これなら使えるかもしれない。レバーを巻いて、シャッターボタンを押すとカシャンと懐かしい音がする。デジタルや電子の世界ではない、機械としてのカメラの味わいだ。
 せっかくだから一回くらい使ってみようと思い、フィルムを入れて……って、どこから入れるんだ!? まったく分からんっ! いろんな角度からカメラを眺め回してみても裏蓋を開けるスイッチやレバーのたぐいが見つからない。あちこちボタンを押したり、ダイヤルを回したりしてみるものの、いっこうに裏蓋が開きそうな気配はない。ヤケになってフィルム巻き上げレバーを回してはシャッターを切り、回しては切り、切っては回しを繰り返してみたが、そんなことでラチが開くはずもなかった。なんだか、カメラというものを生まれて初めて目にしたジャングルの部族の人みたいになってしまった私であった。

 それから時は流れ3日後、相変わらず裏蓋を開けられないまま、折に触れPENTAX SPをいじったり、振ったり、叩いたりしていた私は、ついに決心をする。こうなったらマイナスドライバーで無理矢理こじ開けるしかないと。そのとき、いや、ちょっと待て、と頭の中で声がした。その前にネットで検索した方がいいんじゃないかな、と。それも一理ある。早速心の声に従い検索してみた。
「PENTAX SP フタ 開かない」
 世の中には自分と同じことを考えている人間が3人はいるという。なるほど、今回もそうだった。私と同じようにこいつのフタの開け方が分からず悩んでいた人を発見。本体左上にあるフィルムを巻き取るときのスイッチレバーを上に持ち上げて、更に力を込めてぐいっと上に引っ張ると、あら不思議、裏蓋は魔法の呪文を聞いたようにパカリと開いたのだった。まさかこんな仕掛けがあったとは。説明書も読まず、誰にも教えてもらわずにこのカラクリに気づく人がどれくらいいるんだろう。けど、このことを書いていた人は20分も悩んでしまったと書いている。20分で突き止めたなんてすごい、と私は感心してしまった。それにしても、マイナスドライバーでこじ開けなくてよかった。
 裏蓋さえ開いてしまえばこっちのものだ。フィルムを入れて……。ん? こんな感じでいいのかな? なんとなく軸の隙間にフィルムの先を入れて回してみたら巻いていったのでたぶん大丈夫だろう。まずは試し撮りだと小幡緑地に向かった。



これぞフィルムの青空
PENTAX SP+Super Takumar 55mm(f1.8)+Kodak ULTRA COLOR 400UC

 露出計の電池が切れてるので完全マニュアル機となっているSPに苦戦しながら、なんとか撮ってすぐにカメラのキタムラに持ち込み、現像とCD-ROM書き込みを頼んだ(1,010円)。そして出来上がってきたのがこの写真だ。
 おおー、撮れてる、というのが最初の感想だった。しかも、銀塩EOSよりもきれいに写ってるのには驚いた。使ったフィルムが、Kodak ULTRA COLOR 400UCということもあるんだろうけど、これぞフィルムでしか撮れない青空という感じに写っている。ポジフィルムに近いくらいの深さだ。

 このカメラが発売されたのが1964年。昭和39年といえば東京オリンピックの年で、私はまだ生まれてない。世界で初めてレンズを通して測光できる(TTL)カメラとして世界中で話題となった。価格は本体のみで3万円、55mm f1.8が付いて4万4,200円、50mmF1.4付きで53,500円だった。この価格と性能でたちまちベストセラーとなり、この後しばらくPENTAXの時代が続くことになる。私も子供の頃は、持ってもいないくせにカメラはペンタックスが一番と思い込んでいた。キヤノンやニコンなんて一段も二段も落ちるメーカーじゃんと。子供の思い込みなので、ニコン党の人とか怒らないでくださいね。
 しかし、4万、5万という価格は決して安い買い物ではない。当時の大卒初任給が2万円切るくらいだから、現代の値段に換算すると40万とか50万とかになる。フラッグシップ機の価格帯だから、その頃のおとーさんとしては家族の猛反対を押し切って、気絶しそうなくらいの意気込みで一台のカメラを買ったのだろう。何度も家族会議を開いたかもしれないし、好きなタバコやお酒をやめてまで欲しいと思ったかもしれない。一眼レフというのは、学生やOLが趣味として気軽に買えるようなものではなかった。
 ちなみに、トヨタコロナが54万円だったというから、今でいうと500万円オーバー。当時は自家用車もまだまだ高嶺の花だった。
 それにしても40年経った今でも現役で使えるというのはすごいことだ。いかに丈夫で壊れにくいか。露出計の部分がダメになってるのは多いけど、基本的には問題なく動くものがほとんどだと思う。ミラーが上がったまま下りてこないことがあるという不具合が私のやつもあったけど、底蓋をはずして(小さいマイナスネジ4本だけ)、ギアの部分にKURE 5-56を吹きかけたら直った。



SPで撮ったキバナコスモス
PENTAX SP+Super Takumar 55mm(f1.8)+Kodak ULTRA COLOR 400UC

 こういう描写もフィルムならではだ。解像感もボケも申し分ない。それと、このフィルムけっこういいんじゃないか。今回プリントしてないからその点ではよく分からないのだけど、デジタル化も想定して作られているというから、デジタルデータにしたときの印象がいいのかもしれない。
 花はキバナコスモス(黄花秋桜)で、原産地はメキシコ。一般的なコスモスもメキシコの高原地帯だけど、あちらの方が日本の風景に馴染む。こちらはちょっとバタ臭いというか、葉っぱの形や咲く様が繊細さを欠く。普通のコスモスよりもチョコレートコスモスに近いそうだ。オレンジの他に黄色もあり、日本には大正時代に入ってきた。

 カメラはここ50年ほどのあいだにいろいろな部分が大きく進化した。フォーカスはオートになり、自動測光になり、より簡単に、使う人に優しくなった。デザインやスタイルも変化し、ここ数年でフィルムからデジタルへとほぼ完全に移行しつつある。けど、PENTAX SPを今回使ってみてあらためて思ったのは、やっぱりカメラってレンズなんだなということだ。カメラにレンズが付いているのではなく、レンズにカメラを付けるというのがとらえ方としては正しいのかもしれない。
 デジカメへの流れは今後も止まらない。デジタルは更なる進化を遂げていくだろう。ただ、フィルムカメラが完全になくなってしまうことはないはずだ。レコードファンよりももっと一般的な場所で残っていくと思う。それはやっぱり、フィルムカメラならでは楽しさがあるからだ。特にマニュアル機となると自分で考えなくていけないことが多くて、そこがかえって楽しさとなる。絞りは開放にするのか絞るのか、この絞りならシャッタースピードはどれくらいなのか、ピントは合ってるかどうか、手ぶれしないように慎重にシャッターを切って、現像に出して、取りに行ったときちゃんと写ってるかどうか不安と期待が入り交じるあの感覚。デジカメが手軽さや便利さを得る代わりに失ってしまったものだ。
 オールドカメラやレンズには、確かに撮る楽しさがある。ただ、それは個人的なものであって写真を見る側(あるいは見せられる側)には関係のないものだ。むしろ、邪魔くさいとさえ言える。そんな話はマニア同士で勝手にやってくれと私も思ったりもする。このデジ全盛の時代にあえてフィルムで撮ってる人間なんてよほど変わり者か、妙なこだわりをひけらかす嫌味な人種じゃないかと思う人もいるだろう。頑なに時代に逆行する頑固オヤジや、気取った芸術学部の学生に対するような反発心とコンプレックスの入り交じったようなものを感じることもある。
 とはいえ、クラシックカメラに関してはロー・アマチュアな私でさえ、こっちにおいでよと手招きせずにはいられないのだ。面白いよー、いっぺん触って撮ってみてよ、絶対楽しいから。こんな魅力的なオモチャをマニアだけに独占させておくのはもったいない。
 今なら、レンズ付きでSPなどのまともに動くマニュアル機が数千円でゴロゴロ転がっている。中学生のお小遣いでも買える値段だ。大人買いなら10台だって買える。
 もう一度言おう、こっちにおいでよ、と。
 
関連記事ページ
コメント
非公開コメント

良い買い物をされたようですねぇ~・・・

私なんぞは若い時からカメラをいじっていましたから、古いカメラに関しては問題なく扱えますが、最新式のカメラになると?????の連続です・・・
ファンクションキーとコマンドダイヤルで機能を選んで、セットボタンやアジャストボタンで調節などと言う訳の分からないカメラは取説が離せません・・・
多機能になって便利になった反面、使い勝手は恐ろしく悪くなっています・・・
でもレンズはコーティングやレンズ設計が改良されて新しいレンズの方が写りは良くなっています・・・
そう言いながらLマウントのライカレンズなども写りの面白さに惹かれて使っていますが・・・

2006-09-03 15:02 | from 我楽多 | Edit

タクマー侮れませんね

おいらは始めての一眼がAE-1だったのです

しかし、タクマーをつけたEOSでペンタを撮る

なんか面白いですね

2006-09-03 17:01 | from ただとき

逆光してるから新鮮

★我楽多さん

 こんにちは。
 PENTAX SPは、というか、マニュアル機は、面白くもあり、とっても難しくもありますね。絞りは感覚的に分かるけど、シャッタースピードの適正が分からない。
 特に私のようにほとんど何も知らないままデジカメから入った人間としては、マニュアル機は、かなーりチンプンカンプンだったりします。(^^;
 銀塩のEOSくらいなら、デジとほとんど変わらない感覚で使えるんですけどね。

 我楽多さんは、私とは逆に歴史に沿ってカメラとつき合ってきたんですね。それはとっても素敵なことだなぁって思います。感慨深いものがあるでしょうね。
 私は逆に見てるから、古いカメラやレンズの画質が新鮮に映ってるんだろうなぁ。
 レンズはデジタル用のコーティングになってどうなんでしょうね。確かに逆光に強くなったりしてるんだけど、コーティングだけされたものと旧機種を比べてもよく分からなかったり。(^^;

 まだ知らない世界のLレンズやツァイスの世界に憧れつつ、あっちへは行きたくないような私です(笑)。

2006-09-04 03:36 | from オオタ | Edit

底はあるのか?

★ただときさん

 こんにちは。
 タクマー、やりますね。単焦点ってこともあるんだろうけど、EFレンズやキヤノン用メーカー製品にはない深さを感じます。キレだけならEF50mm f1.8の方が上なんだろうけど。
 しばらくタクマーで楽しめそうです。
 でも、やっぱりツァイスを使ってみたいなと思ったり。(^^;

 ただときさんはAE-1だったんですか。いいですねー。私も一度は手にしたいと思ってるカメラです。(^^)
 昔のドラマ「池中玄太80キロ」で西田敏行が使ってたA-1も憧れの1台。

 それにしてもカメラって底が見えない道楽ですね。(^^;
 金をかけようと思えばキリがない。ああ、恐ろしい(笑)。

2006-09-04 03:46 | from オオタ | Edit

開ける方法が分からず困っていたところ、このブログに辿り着きました。
ありがとうございました!!

2010-03-02 15:31 | from 通りすがり

あれは気づかない

★通りすがりさん

 こんにちは。
 あれは何の手がかりもないと、なかなか気づかないですよね。
 フィルムカメラから入った人なら見当がつくのかもしれないけど、デジタルからだと全然思いつかない。
 お役に立ててよかったです。

2010-03-03 02:38 | from オオタ | Edit

裏蓋

はじめまして。
カメラの裏蓋の開け方。一瞬、どうだったか?と考えてしまいました。久しぶりにニコンF3を取り出してみたら、すぐに思い出しましたが。それだけ使う機会が減った、ということでしょう。
なお、このニコンF3、巻き上げレバーを引っ張っても裏蓋は開きません。「在る仕掛け」があって、それを操作しないとダメなんです。

2017-06-04 14:59 | from CAO

裏蓋の仕掛け

>CAOさん

 はじめまして。
 コメントをいただきありがとうございます。

 この記事を書いたのはもう10年以上前なのですが、皆さん、同じように悩まれているのでしょうか。今でもけっこう読んでいただいているようです。
 マニュアルなしにあの仕掛けに気づくかなぁ。(^^;
 
 F3をお使いなんですか。いいですね。
 私はついにハイクラス機とは無縁で終わりそうです。
 PENTAX SPも手放して久しく、フィルムももう10年くらい使ってません。
 F3もレバーを持ち上げるところまでは同じで、そこからもうひと動作必要みたいですね。
 YouTubeの動画を見てみたのですが、どこかを押している? というように見えて、それがどういう仕掛けなのか分かりませんでした。

2017-06-04 20:04 | from オオタ | Edit

ペンタックスSP

そういえばペンタックスSP、中学生時代(1972~1975年)に使っていました。当時はもっと上のカメラが欲しいと思いましたが、今になってみると、こういうカメラの方が味があって良いです。

2017-06-05 12:30 | from CAO

レンズ沼の手前

>CAOさん

 こんにちは。
 PENTAX SPは中学生のときにお使いでしたか。
 それはもう筋金入りですね。
 私はデジタルから入ってフィルムも試してみたというだけなので、にわか銀塩ファンです。
 デジタルに慣れてしまうとフィルムの一枚って、重いんですよね。なかなかシャッターが押せない。
 一時はフィルムスキャンもやっていたのですが、結局、デジタルに戻ってしまいました。

 オールドレンズにも一時、手を出して、カールツァイスやライカに行きかけて思いとどまりました。
 あれは沼ですからね。

2017-06-05 21:51 | from オオタ | Edit

トラックバック

https://utusemibiyori.com/tb.php/357-306dcb3b