ハグロトンボを撮ってお歯黒の勉強をした 2006年8月24日(木) - 現身日和 【うつせみびより】

ハグロトンボを撮ってお歯黒の勉強をした 2006年8月24日(木)

オハグロトンボ

Canon EOS 10D+Super-Takumar 135mm(f3.5), f3.5, 1/60s(絞り優先)



 ひと月ぶりとなった海上の森行き。出迎えてくれたのは、ツクツクボウシの大合唱と、たくさんのハグロトンボたちだった。一ヶ月も間が空いてしまえば生き物たちの顔ぶれはがらりと変わる。もちろん、野草たちも。8月の前半に行けなかったのが少し心残りだ。それにしても、クモの巣はまた大変なことになっていた。10歩進むごとに糸が顔に絡みつき、声にならない心の叫びをあげ続ける私であった。

 ハグロトンボは、田舎の川でよく見かけたという印象が強く、名古屋市内ではあまり姿を見なかった。公園や緑地の水辺へ行くといるくらいで。
 いつも岩とか草にとまっていて、近づくとハッと飛び立ち、ヒラヒラと頼りなげに舞い飛んで、また離れたところにスッととまる。その様子は、あまり飛ぶのが好きでないようにさえ見える。ハグロトンボの飛ぶ持久力というのはどれくらいあるんだろう。本気を出したらどこまでも飛んでいけるのだろうか。
 近年、都会では川の護岸工事などで数を減らしているという話だけど、海上の森にはうようよいた。最初は、あ、羽黒だと喜んだ私も、10分で飽きるほどに。ただ、数は多くても写真を撮るのはけっこう難しいやつだ。警戒心が強いので、なかなか近づけない。自分の飛びが遅いということを自覚していて、早めに逃げるようにしてるのだろう。撮るときは、まずいったん動きを止めて、向こうがとまったのを見てからそぉ~っと近づくのがコツだ。アイドル寝起きドッキリのレポーター並みの静かな動きが要求される。
 寒いところは好きじゃないらしく、青森より北にはいないという。かといってあんまり暑いところも苦手なようで、九州の南部は局地的にしかいないようだ。沖縄にはたぶんいない。朝鮮半島、中国、ロシアの一部にもいるらしい。
 体長は5~6センチくらい。胴体が緑色に光っているのがオスで、写真のように黒いのがメスだ。
 同じように翅が黒いアオハダトンボというのがいるけど、あれはオスの翅が青っぽいのと、メスの翅には白いちょんというのがあるので区別が付く。ハグロトンボの翅は光りに当たると茶色っぽく見える。
 ヤゴ(幼虫)は水の中で小さな魚などを食べて2~3年ほど生きる。6~7月くらいに羽化して、成虫の姿を見るのは7~8月が多い。遅いものは10月くらいまで飛ぶらしい。私の中では8月のトンボというイメージだ。
 若いときは薄暗い林の中を好み、成熟してくると明るい川辺に出てくるというから、海上の森で私が見たのは若手の連中だったのかもしれない。

 ハグロトンボの名前の由来は、翅が黒いから羽黒だと思ってる人が多いようだけど、実際はお歯黒から来ているという説が有力だ。別名にオハグロトンボだけでなく、歯を黒くするという意味の「鉄奬(かね)つけ」からカネツケトンボとも言うところからもそれがうかがえる。
 ところで、お歯黒とは何でしょう? という問いにスラスラと答えられる人はどれくらいいるだろう。大人になった証として歯を黒くするというくらいは分かっていても、何故そうするのか、いつ頃から始まっていつ頃すたれた習慣なのかというところまで知っている人はそれほど多くないんじゃないだろうか。私、忘年会の隠し芸でお歯黒やったことあります! という人はいるかもしれないけど。私もよく知らなかったので少し勉強してみた。
 そもそもは弥生時代や古墳時代からお歯黒に類することは行われていたようだ。日本以外では、東南アジアや中国の一部の部族で似たようなことが行われていただけなので、そこから伝わったのか、あるいは自分たちで思いついたのかは分からない。一般的な習慣として定着したのは平安時代で間違いなさそうだ。
 貴族の身だしなみとして、最初は女性が、のちに男性貴族もまねるようになる。平安後期には武士層にも広がっていった。
 戦国時代になると成人の儀式という意味合いが強くなり、政略結婚のために幼い女の子がお歯黒をされて嫁に出されるというようなことも多かった。お歯黒というとこのへんのことを思い浮かべる人も多いかもしれない。
 江戸時代になると、今度は結婚の証となっていく。結婚指輪ならはずせば分からなくなるけど、お歯黒は誤魔化しようがない。腹話術師でもなければ口を開けずにしゃべることもできないからすぐに既婚だと分かってしまう。
 この習慣がすたれ始めたのは幕末だった。西洋の文化や習慣を知るようになると、これはやっぱりいけてないんじゃないかと思うようになったのだろう。時代はホワイトニングでしょう、ということにだんだんなっていった。女性蔑視にもつながるということが言われたりもしたようだ。
 明治3年には、ついに華族のお歯黒禁止令が出されることとなる。続いて明治6年には皇后もお歯黒をやめ、お歯黒の時代は終わったのだった。未来でまたリバイバルするかどうかは誰にも分からない。私の未来予測では、もう一度ボンタン、長ラン、ハイカラー、リーゼントの時代が来るとにらんでいる。時代は巡る。
 現代においてお歯黒をやってみようとすると、これがなかなかに大変だ。お歯黒液は市販されていないので自分で作るしかない。まずはお茶の中に麹(こうじ)、粥(かゆ)、砂糖、酒などを混ぜて、そこに真っ赤に燃やしたクギを入れて2ヶ月寝かす。すると特殊な鉄分ができてくるらしい。そこに、ヌルデの葉っぱにヌルデシロアブラムシという虫が寄生してできる虫こぶ---五倍子(ごばいし)というらしい---をどこからか調達してきて(どこで?)、火であぶってから粉末にして混ぜるのだ。なんだか、魔女の調合する怪しい薬みたいだ。
 とにかく、そうして出来上がった黒い液体を、筆で歯に二重、三重に塗る。でもすぐに取れてきてしまうので、2日に1度は塗り重ねないといけない。お手軽さとはほど遠いけど、お歯黒にしたい人はぜひこの方法を試してみてください。証拠写真待ってます。

 以上、ハグロトンボとお歯黒の話でした。ハグロトンボを見かけたら、このお歯黒の話を思い出しながら、そぉっと近づいて激写してみてくださいね。そのとき、もしあなたがお歯黒をしていたなら、ぜひ私に撮らせてください。お歯黒をした人がオハグロトンボを撮っている図というやつを。ハイ、笑って~。
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ハグロトンボ雄もミヤマカワトンボ雄と同じく
腹部が青緑色に光るので暫く見とれてしまいました。
雌には偽縁紋がありませんが,腹部が褐色なので辛うじて分かります。
口元には牙らしいものが見え怖そうです。

2014-02-05 17:29 | from itotonbosan | Edit

早く来いトンボの季節

>itotonbosanさん

 こんにちは。
 詳しく教えていただきありがとうございます。
 トンボは撮るのが好きで、最近はもっぱら飛んでいるところを撮っているのですが、トンボについて詳しいかといえばまったくそうではなく。
 トンボも種類がたくさんあって、見分けるのが難しいです。
 本当は生態とかをもっと知れば撮るときにも役に立つんでしょうね。
 何はともあれ、今年も早くトンボの季節になって欲しいと今から願ってます。

2014-02-06 00:09 | from オオタ | Edit

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