
Canon EOS 10D+EF50mm(f1.8), f2.8, 1/6s(絞り優先)
世の中には地図に載っていないレンズ沼という沼がある。その沼には華麗に泳いでいる人から、つま先立ちで口まで浸かってブクブクと言葉にならない言葉を発している人までさまざまな人たちがいる。私はまだ大丈夫だ。浅瀬でヒザあたりまで入って、たわむれてる程度だから。ただし、その先は急激にがくんと深くなっているから気をつけようとは思っている。
沼にもいろいろな種類がある。無数レンズ沼、高級レンズ沼、Lレンズ沼、マイナーレンズ沼などなど。どの沼に浸かっている人にも共通するのは、苦しいくるしいと言いながらどこか楽しげで、こっちへおいでよと手招きしてるという点だ。もちろん、うっかり近づいたりするのは危険なのでやめておいた方がいい。
初めてレンズ交換式のデジタル一眼レフEOS D30を買ったのが、去年の10月の終わりだった。その後、FUJIFILM FinePix S1pro、EOS 10Dと買い換え、その間に安いレンズを10数本買った。一番高いものでもTAMRON 90mm SPの1万5,000円(買い値)なので、きわめて健全なレンズ・ライフだと自分では思っている。これがうっかり一番安いLレンズ(Canonの高級レンズシリーズ)でも買おうものなら、たちまち深みにはまることは目に見えている。格安のLレンズがオークションに出品されないことを願いたい(ホントは出て欲しい)。
そんなぬるいレンズ生活を送っていた私の前に現れたのがM42だった。といっても、宇宙のM42星雲ではない。突然天体野郎になってしまったわけではなく、M42マウントのレンズのことだ。
簡単に説明すると、ずっと昔(1948年)、東ドイツのプラクチカフレックスが最初に発売したカメラのマウント規格のことで、それ以降、ドイツや日本などもメーカーがそれにならってカメラやレンズを作ったという歴史のあるものだ。かつてのゲーム機MSXみたいなものと言うと分かる人は分かるだろうし、分からない人はよけい混乱するだろうか。現在は各メーカーによって使えるレンズが違っているけど、それを統一しましょうということで作られたのがM42だった。
今回買ったのは、Asahi PENTAXのsuper takumar 135mm f3.5。値段は2,000円。発売は1970年代だろうか。とにかく古い。骨董品に近い。でも、M42アダプタと組み合わせることで、最新のデジカメでも使えるというのが素敵だ。
EOS-M42アダプタは2,000円と安く、他にも各メーカーのものが出ているから、今使っているデジにしろ銀塩にしろ、たいていのものはM42マウントのレンズが使える。こっちにおいでよ~と手招きしてみる。
何故、そんな昔のM42レンズなんか使う必要があるのか? その問いの答えは、そこにM42レンズ沼があるから、と答えておこう。必然性ははっきり言ってない。ただの趣味、というより道楽のようなものだ。「味」なんていうのはただの付け加えの言い訳のようなものでしかない。明るい単焦点が安く買えるというメリットはあるものの、カール・ツァイスなんかだと、最近のデジ用レンズよりも高値で取引されていたりするから、必ずしもビンボー人の道楽というわけではない。

135mmということでデジタルの1.6倍となると216mm(35mm換算)になる。200mmで撮るものが思いつかなかったので、まずは家にあったルリマツリを撮ってみた。
135mmではあるけど、望遠レンズとして作られているので、こういうマクロは本来の使い方ではない。最短距離も1.5メートルと、マクロ写真を撮るようにできてない。だから、ボケ味もきれいじゃなく、煩雑な感じだ。ただ、ちょっと驚きの解像感ではある。さすが単焦点。30年前のレンズとは思えない。ピントが合ってる部分はかなりシャープだ。色乗りはややあっさり目ながら悪くない。
解放でのピントは浅い。この写真は確かF5.6くらいに絞っているけど、背景さえ整理できればマクロ的に使えないこともないか。
EOSの場合は、絞り優先モードでそのまま撮れる。本体は0.0固定のまま、レンズの絞りダイヤルを回すと、EOS本体のシャッタースピードが連動してくれるので便利だ。
ピント合わせはもちろんマニュアルになる。けど、このピントリングの出来が素晴らしい。最近のデジタル用レンズなどに比べると、かなり細かくシビアに合わせることが可能となっている。10センチの間で合わせるのにリングをぐりぐり回せて楽しい。10Dのファインダーでそこまで完全に合わせるのは難しいのだけど。

逆光に強いというのもこのレンズの特徴だ。太陽をまともに撮っても影が黒く潰れず、中間の階調もしっかり残っている。これ以外にも厳しい逆光で何枚か撮ってみたけど、コントラストの低下も少なく、フレアなども発生しなかった。フードなしで。
135mmの単焦点望遠レンズをどんな場面で使えばいいのかまだ見えてこないのだけど、なかなかに実力を秘めた楽しいレンズだということは分かった。せめて最短距離が50センチくらいだったもう少し幅が広がっただろうに。花マクロには使いづらく、猫を撮るには1.5メートル距離を保たなければいけないから室内では苦しい。今日も撮ろうと思ったら、アイが近づいてきてまったく撮れなかった。わっ、あっち行け、とか行ってもアイには通じない。望遠レンズとして使うには200mm程度では物足りない。鳥も撮れないし、動物園でも届かない。車の運転席から撮れるものを探して走ってみたけど、これまた厳しいことこの上ない。自転車の女子高生を盗み撮りするにはいいかもしれないけど(いや、もちろんそんなことはしてないです)。
スーパー・タクマー、訳すと超琢磨。なんだかスーパーアグリの佐藤琢磨みたいではないか。ってことは、鈴鹿サーキットへ行って、佐藤琢磨を撮れってことなのか? 鈴鹿のヘアピンあたりでスーパーアグリの琢磨をスーパータクマーで激写(もちろん流し撮り)。そのときこそ、この超琢磨の真の実力が発揮されるときかもしれない。
などとアホなことを書いている間にも、超琢磨の200mmと55mmを買ってしまっている私であった。そろそろM42レンズ沼の膝下あたりまで入ってしまったか!?