Canon EOS 10D+TAMRON28-300mm XR(f3.5-6.3)+C-PL, f5.6, 1/100s(絞り優先)
小牧市のはずれに「ふれあいの森」という名の場所がある。私はこれまで3回行ったことがあるが、どんなところなのと問われると、うーんとうなってしばらく考え込んでしまう。なんか、変な場所なんだよねぇ、と言ってあとが続かない。地図で見つけて、森というから森なんだろうと思っていくと、なんか違うぞここ、と感じるだろう。ペットボトルの水と思って飲んだらスポーツドリンクだったときのような違和感とでも言おうか。森というよりも、遊歩道のある低い山と言った方が近い。少なくとも、整備したての頃はそうであっただろう。
私がそこを初めて訪れたのは、2005年の2月終わりのことだった。入り口付近からしてすでに閑散としており、人が訪れている様子がないのでいきなり少し不安になる。砂利道もかなり荒れている。奥に進んでいくと、展望スペースとして木のイスとテーブルが置かれているところに出た。そこは草ボーボーですごいことになっている。イスも3年は誰も座ってないであろうという風情を醸しだしていた。もしこの場所で弁当を食べている親子がいたら、それはキツネが化けているに違いないと思った。ここは森じゃない。違和感から不信へと変わりつつあった。
散策路はだんだん曖昧になり、やがて道は消えた。道なき道を進み、上を目指して斜面を登っていく。その途中、これは森なんかじゃない。不信が確信へと変わった。
ぜえぜえ言いながら登っていくと、ふいに整備された遊歩道とぶつかった。一体どうしたことか。私が歩いた道って? どうやら私が勝手に道を外れていただけだったらしい。遊歩道の分岐点には案内表示も立っていた。
気を取り直して山頂にあるはずの白山神社を目指す。デコボコの山道を歩いていくと、いきなり断崖のそばに鳥居が立っているのが見えた。あれがそうか。確かに白山神社はあった。思いがけずきれいに手入れされていて少し驚く。管理してる人がいるのだろう。
表側からは小牧、春日井、名古屋市が見渡せ、裏からは入鹿池や明治村が見える、なかなかのロケーションだ。印象は一気に上がった。見てくれはともかく、つき合ってみればいいやつではないかと思った。
しかし、その好印象を一気に崩れさせたのは、休憩所にあるトイレだった。休憩所自体も荒れ放題な上に、トイレの便器には枯れ葉やらゴミやらが山のように詰まっており、とんでもないことになっていたのだった。これほどまでに使用不能なトイレを見たのは初めてだった。
帰りはコースを変えて下っていったら、途中で道がなくなった。なくなっただけならまだしも、いきなり断崖になっていたのは驚いた。迂回して、少し緩やかな断崖を見つけて滑り降りた。勢いよく駆け下りすぎて下の地面で転げそうになった私を見ていた人はいない。
その先では、大型のブルドーザーやらトラックが何台も入り、ガーガーと大きな音を立てて大がかりな作業をしているところを目撃した。
なんだかいろんな意味ですごいことになってるなという強烈な印象を残し、この場をあとにした私であった。
それから半年後、もう一度行ってみた私は、いきなり入り口で立ち尽くすことになる。立ち入り禁止になっていて中に入れなくなっている。森が封鎖? 何があったのだろう。あまりの荒れっぷりに小牧市も危険を感じて閉鎖したのか、それとも全面的な整備をするための一時的な措置なのか。説明もなく、知る術はなかった。封鎖されていては入ることもできず、あえなく引き返すことになった。
そもそもあんなに荒れてしまったのは、小牧市の公式ページによると2000年の東海豪雨が原因だったらしい。しかし、それにしては時間も経っているし、2005年の2月には入れたのだ。もしかしたら、もう森と言い張るのはあきらめてしまったのだろうか。
それから一年近く経った2006年5月。犬山へ行った帰りにふとここのことを思い出して寄ってみることにした。おそるおそる駐車場から歩いていくと、とりあえず入り口は開いている。おっ、改心して整備したんだなと喜んだのもつかの間、全体の4分の3は立ち入り禁止となっていて、市民四季の道という遊歩道と展望所だけが通行可能になったに過ぎなかった。なんて中途半端な。どうやら、少し離れた場所に、あらたに兒(ちご)の森というのを作って、ここはそこへ至るための道として使うことにしたようだ。でも、そんな森をあらたに作るよりも、ふれあいの森をなんとかした方がよかったんじゃないだろうか。小牧市、金があるのかないのか。
兒の森は遠いので、今回は展望所まで行ってみることにした。距離にして1キロくらいだろうか。登りはかなりきついので、20分や25分はかかる。道は整備されていて、なかなか歩きやすかった。
写真はその展望所からの眺めだ。田園が広がる小牧市、その向こうのやや都会めいた春日井市、更に向こうには名古屋市と、段階的な街の様子が見えて面白い。写真を撮るには電線がすごく邪魔だけど、眺めはいい。
どんなところかと訊かれると困るふれあいの森だけど、好きか嫌いかと訊かれたら、なんだかすごく好きと即答できる。かなり無茶な荒れ方をしてるここだけど、妙に相性がいい。最初に訪れたときは、初めてオオイヌノフグリとヒメオドリコソウを見つけ、ジョウビタキのオスに出会い、コモウセンゴケの存在を知った。二度目の入り口閉鎖だったときでさえここで初めてアカゲラを見ることができた。そして今回もまた、展望所で初めてホオジロを近くから撮ることができたのだった。よい偶然がこうして重なると、当然その場所に対する印象はよくなる。だから、私はこのふれあいの森が好きなのだ。人にオススメできるかどうかは別にして。
今後、小牧市がこの場所をどうするつもりでいるのかは知らない。できることなら、もう少しだけ整備して欲しいとは思う。今のままでは通行止めが多すぎて自由にコースを選べない。トイレはどうなったのかも気になるところだ。ただ、私などは年に一度か二度訪れるだけなので、今のままでもいいと言えばいい。入り口さえふさがっていなければ。
ぜひまた、今度は夏くらいに行ってみようと思っている。次こそ、歩いてる途中で誰かと出会いたい。でも、会ったらお互いにきっとびっくりするだろうな。まさか、ここで人と出会うとは! と。