
今年こそカタクリの群生を見たいと思って出かけた足助の飯盛山。香嵐渓と言った方がこの地方の人には通りがいいだろう。紅葉で超有名な香嵐渓は、カタクリでも有名な場所なのだった。ヘビセンターはいつの間になくなったんだ?(古っ!)。
いつもとめてる落部の無料駐車場へ行ってみると、しっかり駐車場係のおじさんが立ちふさがっていた。なんてこった。有料なのは紅葉の季節だけじゃなかったのか。有料なら近い場所がいいということで引き返して西駐車場にとめる。1回500円。
駐車場を降り立ってみると、そこには無数のカタクリ……の前にカメラを持った大勢の人々がっ! うわっ、すげぇ、とカタクリを見る前にひるんでしまう私。みんな高そうなレンズ付けて三脚立ててるし。
私はといえば、中古で買ったばかりのタムロン90mmのみという散歩スタイル。ちょっと軽く考えすぎてたかもしれない。試し撮りもしてないのに、いきなり難しい被写体のカタクリに挑んだのは、結果的に無謀だった。群生してる全景を撮りたかったのに、90mmではまったく入りきらない。ズームも持っていくべきだった。
ただ、この写真でもある程度雰囲気は伝わるんじゃないかと思う。こんな調子で山肌一面がカタクリのピンク紫で染まっている光景は、ただただすごいという言葉しか出てこない。ただごとじゃない数だ。この花の根っこでかたくり粉を作ったら、一生かたくり粉は買わなくても済むだろう(現在のかたくり粉は、ジャガイモとサツマイモのデンプンで代用されている)。
飯盛山のカタクリは、北斜面を中心に約0.5haに群生していて、愛知県ではもっとも大きな群生地となっている。東海地方では、岐阜県多治見市の鳩吹山や、豊橋市の西川城跡が有名だ。私が最初に見たのは、犬山市の明治村だった。
3月下旬から咲き始めて、27日現在ほぼ満開だった。4月の10日くらいまでは見られるだろう。飯盛山のは、見たら一生忘れられないくらいの一生ものなので、近くの方はぜひ一度見に行ってみてください。
全国的には、四国は少ないそうだけど、九州から北海道まで、生息地は広い。特に北海道の旭川は大群生でロケーションもいいと聞く。いつか行ってみたい場所のひとつだ。
世界では、アメリカやカナダの高山に咲くキバナカタクリをはじめ、24種類くらいのカタクリ属の花があるらしい。ヨーロッパ原産のものは花が赤いという。
英名は、Dog tooth violet。犬の歯のスミレ。
花は下向きで奥ゆかしくもあり、立ち姿は凛々しくもある。色だけじゃなく、その姿に人は何かを感じるから、こんなにも人気者になっているのだろう。春一番で咲くスターのカタクリは、トップバッター・イチローを思わせる。松井稼頭央ではない。
ハナバチなどが蜜を吸いにやってきて受粉を助け、種をアリが運ぶ。ホトケノザなどと同じように、種にアリが好きなエライオソームが付いている。
種から花が咲くまでには8年。短い歳月じゃない。最初の5年は葉っぱのみで、8年目から花を咲かせて約15年生きると言われている。
飯盛山のものは、もともと群生していたものを、人が人工授粉させたりしてここまでに育てたそうだ。だからこんなにもたくさんのカタクリを見られるのだけど、もし誰もいない山の中でこの光景に出会うことが出来たらどんな感動だろうと想像してしまう。日本にはおそらくそんな場所はもうない。もしかしたら、朝鮮半島や中国にはあるのかもしれない。
カタクリは、春に花が咲き終わると、地上の葉っぱも枯れて、跡形もなく姿を消してしまう。そのまま球根で一年のうち10ヶ月を過ごす。こういうふうに春の間だけ姿を見せて消えてしまう植物や昆虫を、ヨーロッパではスプリング・エフェメラルと呼ぶ。春のはかなさ。それはまるでかげろうのよう。
飯盛山も、初夏になれば普通の山に戻る。訪れる人もめったにない静かな山に。そのときも好きだけど、春の飯盛山もいいもんだ。秋は気絶しそうなほどの道路渋滞で近づく気さえ起こらないけど。
きちんと管理が行き届いているから、これからも毎年大勢の人を喜ばせ、感動させることだろう。私もまたひとつ、約束の地が増えた。来年また必ず戻ってきます、そう約束してカタクリ咲く飯盛山をあとにした。