
初春の野草の中で、もっとも地味な野草と言えるであろうナズナ。ハコベといい勝負で引き分けといったところだ。しかし、これでも春の七草のひとつであるから侮れない。ナズナと聞いてもピンとこない人も、ぺんぺん草と言えばこれがそうだったかと思い出すかもしれない。
かつては地味ながらちびっこの友だったナズナも、近年あまりかえりみられることがなくなった。春の七草を自分で採って食べる人もめったにいないだろうし、学校帰りの小学生もこんなものを振り回して遊んだりしない。せいぜい野草好きな人間に写真に撮られるくらいのものだろう。冬野菜を育ててる畑なんかに咲いてしまった日には、雑草として引っこ抜かれてしまう。
ただ、そうやって人間の関心が低くなったことでナズナとしては暮らしやすくなったとも言える。そこらの道ばたにも普通に咲いてるし、河原なんかでは白い絨毯に見えるくらい咲いてるところもある。春の暖かい風に吹かれながら、両手を広げて嬉しそうに揺れていた。
原産は西アジアで、日本にはずっと昔、麦と一緒にくっついて入ってきたと言われている。今では北海道から沖縄まで、どこでも咲いてるありふれた野草となった。ただ、民家の近くが好きなようで、人里離れた場所には意外に咲いてなかったりする。人の手の入らない荒れ地なんかに咲いてるからどこでも生きていけるように思いがちだけど、案外寂しがり屋だったりするんだろうか。
漢字で書くと、薺。読めないし、書けない。
名前の由来は、夏になると無くなるから夏無、それが転じてナズナとなったとも、撫でたいくらいかわいい菜っ葉で撫菜、それがなまってナズナになったとも言われる。あるいは、切り刻むという意味の「ナズ」に菜が付いてナズナになったという説や、朝鮮ではナジといっていて、それをナジの菜と呼び、やがてナズナになったという説などもあるようだ。
別名のぺんぺん草は、花の下につくハート型の果実が三味線のバチに似ていて、三味線を弾くペンペンという音から来ているというが一般的な説明となっている。実をさかさにして振るとペンペンという音がするから、というのもある。
英名のShepherd's purse(羊飼いの財布)も、実の形から来ているのだろう。
中国では古くから薬として使われていたようで、日本で七草がゆとして食べられるようになったのは室町時代あたりからだそうだ。若葉を熱湯でゆでて刻んで食べる。
昔はよく、「ぺんぺん草も生えない」という言い回しを使ったものだけど、最近そういえばまったく聞かなくなった。荒れ地でさえ生えるナズナも生えないくらい何も残ってないということをたとえてそう言う。アイツの通ったあとはぺんぺん草も生えない、のように。
もっと昔は、おまえの家にぺんぺん草を生やしてやる、という脅し文句として使われていたそうだ。それくらい荒れ果てさせてやるという意味だろう。しかし、今これを使っても、相手はキョトンとしてしまって効果はまったくないと思われる。使うときは多少なりとも教養のありそうなちょい悪オヤジに限定しておいた方がよさそうだ。
花言葉は、「あなたにすべてお任せします」。もし、ナズナの小さな花束をプレゼントされたら、そういう意味なので受け取るときは慎重に。全面的にお任せされても困ってしまうので、私は受け取るのはやめておこう。
一見するとタネツケバナに似ているので間違えやすい。ポイントは広げた両手の先。ウチワのようなものを持っていたらナズナで、何も持ってない棒状だったらタネツケバナと覚えておけば間違いない。
ふと思ったけど、ナズナって東北弁っぽい。夏だなや~(なづだなや~)、みたいな響きを感じる。
こんな地味なナズナだけど、今後ともよろしくお願いします、とナズナに代わって私からのお願いでした。至近距離で見ると白くてけっこうかわいい花なのです。ちょっとなまってますけど(なまってない)。