のれんがかかる夏の奥津を歩く

観光地(Tourist spot)
奥津宿-1

PENTAX K10D+PENTAX DA 16-45mm f4



 伊勢奥津駅を南へ少し下ると、道標の立つ伊勢本街道にぶつかる。
 名松線の行き止まりということで、山奥の行き止まりを想像していたら、ずいぶん趣が違った。かつてこの場所は、伊勢本街道の宿場町として大いに賑わったところだという。
 この道は、大和と伊勢を結ぶメインルートだった。垂仁天皇の時代、天皇の皇女・倭姫命(ヤマトヒメ)が、天照大神の鎮座する場所を探して伊勢に向かうときに整備されたという伝承も残っている。
 大和の東の玄関口だった榛原(はいばら)や長谷寺のある長谷などと伊勢神宮を結ぶ街道は、多くの人々が行き来した。
 奈良時代には、東大寺の大仏を建造するとき、この道を通って丹生の水銀が運ばれた。丹生は私の故郷だから、感慨深いものがあった。
 東へ5キロほど行ったところに、伊勢国司・北畠氏の本拠があった。室町時代には大変な勢力を持っていた北畠氏も、織田信長によって攻め滅ぼされてしまう。
 館があった場所は、庭園や神社のある国の史跡になっている。歩いて行くには少し遠すぎる。
 江戸時代には庶民のお伊勢参りが流行して、西国から大挙して人が押し寄せ、奥津宿も人がごった返すほどだったそうだ。
 松阪出身の国学者・本居宣長もこの道を歩いている。
 今の奥津を見て、かつての繁栄を思い描くのは難しい。けど、わずかに往時の名残を見ることができる。短い時間ながら、伊勢本街道の旧奥津宿を歩いてきた。

奥津宿-2

 いきなり、やるな、というお出迎えで、喜ぶ。
 人の暮らしと歳月の年輪を見るようだ。

奥津宿-3

 道のコーナーに合わせて設計された家。五角形みたいになっている。
 七夕の笹が枯れかれになっているのも、渋い。

奥津宿-4

 火の見櫓だろうか。
 青い空と火の見櫓。昭和の夏みたいだ。

奥津宿-5

 20軒ほどの民家の玄関先に、のれんがかかっている。
 それぞれ屋号が入っていて、かつての面影を偲ばせる。
 町おこしの一環として、それぞれの家庭が手作りのれんをかけているそうだ(土日だけという話も)。
 訪れる人は多くないだろうけど、こういう心遣いは嬉しい。

奥津宿-6

 この大きな店は印象に残る。雑貨の「ぬしや」という店だったようだ。
 大正時代の帳簿などもショーウィンドウに飾られている。雑貨屋といっても、日用雑貨だけではなく手広く商売をしていたところなのだろう。

奥津宿-7

 ここは旅籠の跡だろうか。
 奥津宿は多くの旅籠があったようで、それらしい建物がいくつか残されている。
 宿場としては明治の末まで栄えていたそうで、数軒は戦後まで営業を続けていたようだ。
 母親の同級生が奥津の旅館に嫁いだらしい。それがどこかまでは分からなかった。

奥津宿-8

 味噌やしょう油の店のようで、ここは営業している感じだった。

奥津宿-9

 畳屋さん。のれんがなければ、普通の民家だ。

奥津宿-10

 まねきやののれんが気に入った。色合いも好みだ。
 窓に招き猫が並んでいる。

奥津宿-11

 ここもまだやっていそうな稲森酒造。

奥津宿-12

 煙突は何の煙突だったのだろう。

奥津宿-13

 夏らしい光と影。
 足元をたくさんのトカゲがガサガサと葉音を立てながら逃げていく。懐かしい光景と音だった。

奥津宿-14

 橋を渡って、もう少し進む。

奥津宿-15

 北海道牛乳の移動販売車が走っていた。
 それにしても、お店のたぐいは一切見かけなかった。バスの車窓からも、スーパーらしい店はなかったように思う。みなさん、日々の買い物をどこでしているのだろう。
 コンビニなんてもちろんないし、とにかくお店というものがない。国道沿いに少し行けば、何かはあるのだろうけど。

奥津宿-16

 きれいな格子の家。
 玄関先に餅花を飾っている家が多かった。この地方の風習なのだろう。うちの田舎ではそういったものはなかった。
 餅花は、寒い地方のものというイメージがある。

奥津宿-17

 蔵も残っている。

奥津宿-18

 昭和の飾り窓。割れたらもう二度と手に入らないんじゃないか。今となっては貴重なものだ。

奥津宿-19

 何屋さんか分からない、かすけののれん。

奥津宿-20

 ほどほどに歩いたところで引き返すことにする。深追いは禁物だ。帰りのバスを逃したら、とんでもないことになる。

 伊勢奥津は、JR乗りつぶしのためだけに行くのはもったいないところだ。折り返しまでの時間を、町の散策に当てることをオススメしたい。
 古い町並みに興味がなければ、きれいな川が流れているから、河原で和むのもいいかもしれない。
 季節としては、桜が咲く時期がいいんじゃないかと思う。駅からバスで西へ行ったところに、三多気の桜(みたけのさくら)という桜の名所がある。この地方では有名なところのようで、シーズンにはけっこうな賑わいを見せるそうだ。
 私は夏の奥津を記憶に刻んだ。
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