好きになるのに理由はいらないのは人も町も同じ<名鉄の旅・第9回>

観光地(Tourist spot)
碧南2-1

PENTAX K10D+PENTAX DA 16-45mm f4



 碧南(へきなん)という名前は、僻地の南を意味する、のではない。名古屋から見るとなんとなくそんな気がしないでもないけど、そうではない。碧海郡の南部にあったことから、碧南市と名づけられた。
 西には衣浦港、南は三河湾、北には油ヶ淵があり、東は矢作川で西尾市と隔てられている。愛知県でもこれほど多彩な水に囲まれた地域というのは他にないだろう。市の大半が埋め立て地だから、必然的にそうなるといえばそうなのだけど、これ以上ないほど水には恵まれている。
 かつてここは、遠浅のきれいな海岸線が広がっていたそうだ。兵庫の須磨海岸に匹敵するといわれたというから、なかなか風光明媚なところだったようだ。矢作川の流れも今とは違っていて、油ヶ淵が入り江になっていたらしい。今とはまるで地形が違う。
 大浜湊は流通の拠点として古くから栄え、織田信長もこの湊を奪って大事に守っていた。江戸時代に入っても発展を続け、湊は大いに賑わったという。
 しかし、明治以降は流通の流れが変わり、大浜湊も衰退していくこととなる。ただ、その代わりとして早くから鉄道が敷かれて、碧南はそれなりの賑わいを保っていた。
 高度経済成長期に入ると、盛んに埋め立てが行われ、臨海工業地帯へと変わってゆく。平成に入ってからは巨大な火力発電所を誘致することに成功して、碧南市は愛知県でも有数のお金持ちとなっている。財政力指数が全国1位になったりもした。
 けれど、街を歩くとまるでそんな感じはなく、古い家並みが残る地方都市としか思えない。人気があるわけでもなく、注目度も低い。碧南というのは、なんとなくつかみ所がない町でもある。
 地図を見ると、なんでこんな中途半端なところで行き止まりになっているのだろうと不思議に思う。そのまま海岸線を南から東に進んで吉良吉田までつなげてしまえばもっと便利になるだろうに、と。
 実は2004年までその路線は存在していた。かなりの赤字路線で、苦肉の策として碧南から吉良吉田まではレールバスを運行させていたのだけど、それでも赤字が膨らむ一方なので、名鉄は廃止にしてしまった。おかげで、碧南の人たちは、東の蒲郡や豊橋へ行こうとすると、ずっと北の刈谷か知立まで行って、乗り換えなくてはならなくなった。
 廃線になった頃はまだ鉄道にも鉄道の旅にも興味がなかったから、廃線になるということさえ知らなかった。海沿いをいく列車も一度乗っておきたかったけど、そうしていたら碧南で降りて町を散策することはなかったかもしれない。
 鉄道も行き止まりになってしまった今、碧南は急激に変わるようなこともなく、ゆっくり衰退しながら変わっていくことになるのだろう。

碧南2-2b

 ホームを降りたところに、鉄道員の詰め所みたいな小屋がある。
 線路はこの先もまだ続いている。吉良までの線路はまだ残っているのか、それとももう大部分は撤去されたのか。

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 碧南市の花はハナショウブだから、マンホールの蓋にもハナショウブが描かれている。横のやつは何か分からない。飛んでいる鳥のようにも見える。

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 古い建物などを撮りつつ、のんびり散策する。

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 古くからの湊町で今もそのまま賑やかさを保っているところはあまりない。どこも似たようなさびれ方をしている。碧南の町並みは、福井の三国湊に少し似ていた。

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 この日の目的は神社仏閣巡りではなかったから、目についた寺社に軽く寄っていくだけだった。
 これはどこのお寺さんだったか。よく覚えていない。

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 隣に地蔵堂があったので、ちょっと寄って挨拶だけしていった。

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 これがお寺の本堂。
 気になったのは本堂前の植木。絶壁の角刈りみたいになっているけど、これが正解の形なんだろうか。

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 常行院というのもあったので、寄るだけ寄っていくことにする。

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 狭い地域にたくさんの寺が集まっているというのは、かつてそれだけ賑わって人が多かったということだ。廃寺になったものもあるだろうけど、残っている寺も少なくない。

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 ノミか何かのディスプレイ。

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 H&Mがこんなところにある! と、一瞬驚いた。名古屋にもないのに、なんで碧南に!?
 よく見たら、藤井達吉現代美術館とあった。お洒落なほっともっとでもなかった。
 藤井達吉というのは、大正時代に活躍した美術工芸作家だそうだ。

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 九重味淋の黒塀通り。ここは情緒があっていい通りだ。

碧南2-14

 九重味淋は、江戸中期1772年創業の老舗で、現存する日本最古の醸造元となっている。
 同じ愛知県の半田のミツカン酢は有名なのに、碧南の九重味淋はあまり知られていない。観光資源になり得るのに、少しもったいない気がした。最近は工場見学がちょっとしたブームになっていることだし、碧南は魅力的なところがあるのだから、もっと宣伝して人を呼んでもいいと思う。

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 体裁を整えきれない裏通りにこそ、その町の本当の姿がある。
 歳月で風化した部分に惹かれる。

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 西方寺の石垣と高い白塀。
 あえて細い道、細い道へと入り込んでいって歩く。

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 崩れかけて半分もじゃっている蔵のような建物。

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 なんとなく撮ったシーン。
 これは桜の木だろうか。

 こうして写真で振り返ってみると、何か特別なものがあるわけではないのに、何故かとても印象がよかった。町と人の間にも相性というのがあって、碧南が持っている空気感が私に合ったのだろう。
 碧南歩きはまだこの先も続く。
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