穏やかに見える春の日本海も内に激しさを秘める <第2回>

観光地(Tourist spot)
三国2-1

PENTAX K10D+DA 16-45mm f4 / DA 55-300mm f4-5.8



 横殴りの吹雪が、海岸に咲く越前水仙を大きく揺らし、激しく打ちつける波が、黒い岩場に当たって白く砕ける。灰色の空と海が溶け合い、吹き来る風で遠くが霞んでよく見えない。そんな真冬の日本海のイメージが頭の中にあった。
 訪れたのは4月初頭。春が少し遅い北陸とはいえ、越前の海はすっかり春の顔をしていた。不良少年が歳を取ってただの穏やかなオヤジになってしまったみたいに、まるで何事もなかったかのような表情でこちらを眺めていやがる。春の日本海はどこまでも穏やかで、内心、ちぇっ、なんだよ、と言いたくなるのであった。
 やはり、日本海らしい日本海を見るためには、冬に訪れるしかないらしい。

三国2-2

 海面から顔を出した岩場の上で、何かを採っている人の姿も見られた。これも春になったからなのだろう。冬場の波が荒いときは、のんきにこんなところにはいられないはずだ。

三国2-3

 カワウだろうと思うけど、岩でのんびり毛繕いをしていた。
 なんだか、どこまでも平和な風景で、少し拍子抜けする。

三国2-4

 越前水仙の時期は早く、12月から収穫が始まり、1月の中旬くらいには最盛期を迎える。正月用の生花としても使われることが多い。
 春は黄水仙が少しだけ咲いていた。

三国2-5

 東尋坊が近づくと、少しずつ岩場がそれらしくなってくる。

三国2-6

 流れ着いた大量のゴミがたまっている。ロシヤや中国、朝鮮半島で捨てられたものも多いという。
 日本海へ行くと、いろいろな部分でカルチャーショックを受ける。太平洋側の内陸で暮らしていると、海の向こうに外国があるということをほとんど意識することがない。
 日本海側は向こうの大陸というものを実感として感じることになる。こういうゴミなんかもそうだし、密航などという普段は頭の片隅にもないことが、こちらでは日常に近いところに存在している。自分がもし日本海側に生まれ育っていたら、外国に対して今とは違う精神性を持っていたように思う。

三国2-7

 かがやけ!!三国。そうだ、頑張れと私も応援したくなる。
 けど、ここの人はどうしてしまったのだろう。

三国2-8

 荒磯ふれあい公園を過ぎたあたりから、海岸沿いに荒磯遊歩道(ありそゆうほどう)という散策路が始まる。東尋坊を経て、雄島手前までの4キロほどのコースとなっており、その間には三国ゆかりの詩人や俳人たちの碑が建てられている。
 高見順は、三国で生まれた。
 父親は時の福井県知事、阪本之助。三国を視察に訪れた阪本は、評判の美人だった高間古代に手をつける。その二人の間に私生児として生まれたのが高見順だった。
 このことは狭い港町でたちまち噂となり、住みづらくなった一家は夜逃げ同然で東京へ引っ越すことなった。
 自分は望まれずに生まれてきた者だという意識が生涯つきまとい、高見順の人生に暗い影を落とすことになる。
 阪本之助は永井荷風の父方の叔父で、高見順と永井荷風はいとこに当たる。しかし、高見順の故郷や出生への複雑な思いもあって、二人は最後までいがみ合う仲だった。
 タレントの高見恭子は、高見順が愛人に産ませた子供だ。自分の出生を恨みながら、自分の父親と同じことをしてしまうのは、宿命なのか何なのか。
 長く故郷に背を向けていた高見順も、がんとの戦いの病床で、故郷三国のことを強く思うようになる。最後に自分の出生ともう一度向き合う気持ちになったのだろうか。
「おれは荒磯の生まれなのだ おれの生まれた冬の朝 黒い日本海ははげしく荒れていたのだ 怒涛に雪が横なぐりに吹きつけていたのだ おれが死ぬときもきっと どどんどどんととどろく波音が おれの誕生のときと同じように おれの枕もとを訪れてくるのだ」
 石碑にはこんな句が刻まれている。
 三国ゆかりの文人でもう一人印象深いのが詩人の三好達治だ。
 大阪で印刷業を営んでいた父親の長男として生まれるも、破産して、やがて父親は蒸発。自身も小学生から神経衰弱になり、学校を入ったり出たりを繰り返したのち、文学を志すようになる。梶井基次郎たちの文芸誌に参加したり、萩原朔太郎と知り合ったりする。
 朔太郎の妹アイに惚れ、結婚を申し込むも、向こうの両親に反対され、断念。
 しかし、アイの夫が亡くなると、結婚していた妻(佐藤春夫の姪)と離婚して、アイと再婚。アイとともに移り住んだのが三国だった。ほどなくアイは三好達治のもとを去ってしまうものの、5年をこの地で過ごしている。
 他にも、高浜虚子や山口誓子などの碑がある。

三国2-9

 遠くに見えている防波堤が、昨日出てきたエッセル堤だ。だいぶ歩いてきたことが分かる。

三国2-10

 オブジェのように立ち尽くす一本の木。潮風と雪にやられてしまったのだろうか。日本海の海岸沿いは、植物たちが生きていくにはなかなか過酷な環境だ。

三国2-11

 このあたりの海は、あまり船が行き交っていない。

三国2-12

 どこから東尋坊が始まるのかよく分からないのだけど、このあたりはもうエリアに入っているのかもしれない。

三国2-13

 特徴的な姿をしている岩には名前がつけられている。
 これはたぶん、ローソク岩というやつだと思う。それほどロウソクっぽくはないけどなと思ったら、もう少し低い位置からこの岩の上に沈んでいく夕陽を見ると、ロウソクに炎がともっているように見えるところから来ているんだそうだ。なるほどと、ちょっと納得した。

三国2-14

 遊歩道を歩いて行くと、突然人がたくさんいて驚いた。唐突に東尋坊が始まったという感じだった。
 というわけで、やっと東尋坊に辿り着くことができたところで、今回はおしまいとなる。
 次回の東尋坊本編につづく。
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