
PENTAX K10D+DA 16-45mm f4 / smc Takumar 135mm f2.5 / SIGMA 30mm f1.4
人が撮った四日市コンビナートの夜景写真を見て、自分も撮ってみたい、と強く思った。
なんという異形の美しさ。前時代的のようでもあり、近未来的でもある。文明の果てのようでもあり、退廃的。一切装飾的ではないのに、機能美の極みに達してさえいる。夜の四日市コンビナートが織りなす形と色と煙と音は、官能的でさえあった。

四日市は今まで何度となく通ってはいるけど、車にしても電車にしてもただ通過しているだけで、四日市そのものに行ったことはなかった。何があるというわけでもなく、興味を惹かれる場所もなかった。
コンビナートなどというものは、一昔前までは公害の象徴のような存在で、好きこのんで行くようなところでもなかった。最近は公害問題もずいぶん下火になって、四日市の空気も以前に比べてきれいになったというけど、今日行ってみたところ、肺がちょっといがらっぽいような感じがしてセキも出たから、普通の街と同じとまでは言えないようだ。

コンビナート撮りの定番スポットの一つ、四日市港ポートビルへとやって来た。といっても、今日は展望台に登る予定はなかった。夕方5時までなので、着いたときにはもう閉まっていた。
ここは土曜の夜だけ夜の9時まで延長するため、コンビナート撮りの人々が全国から集まってくるというコアな場所だ。夜景を見にやって来たカップルと、三脚と望遠で武装した人々が毎週土曜の夜に無言のせめぎ合いを繰り広げているらしい。ちょっと見てみたい気もするけど、一人で登るにはそれなりの覚悟も必要だ。
月曜定休で300円。せっかく行くなら土曜日を狙った方がよさそうだ。

ポートビルの手前はちょっとした公園になっているので、下見を兼ねて少し撮ってみることにする。
けれど、この低さからではいい写真は撮れそうにない。手前の障害物が多すぎる。

歩道橋があったので、その上から近づいて撮ってみた。
ここはちょっとよさげだ。ただ、電柱と電線が邪魔すぎる。こいつの存在にはいつも悩まされる。
いろいろな場所からいろんな写真を撮ろうと思っていたけど、障害物の多さや、関係者以外立ち入り禁止の場所などで、撮れるロケーションは限られるようだ。

四日市の海沿いにはたくさんのコンビナートがあるから、どこかいい場所があるんじゃないかと車でさまよった。そうこうしているうちに陽が沈んでしまい、焦る。夕焼けの工場も撮りたかったのに、結局撮ることができなかった。

かなり南下して、塩浜の方まで行ってみたものの、車をとめる場所がない。もっと閑散とした工場地帯を想像していたのだけど、幹線道路沿いということで交通量がものすごく多い。道は慢性的に渋滞しているし、ちょっと脇に路上駐車して車を降りて撮るなんてのは無理だった。
歩きで回るには範囲が広すぎるし、ポイント探しをするならスクーターか自転車だ。
上の写真は、小倉橋の上からだっただろうか。見えているのはたぶん、昭和四日市石油だろう。
鈴鹿川の河口にも撮影ポイントはあるようだ。

とうとう撮影ポイントを発見できないまま夜になってしまい、最後は一番無難な霞ヶ浦緑地公園にやって来た。四日市コンビナート写真は、ここで撮られたものが多い。夜もずっと車を駐車場にとめておけるし、公園なので明るさもあって安心感がある。公園内にはトイレとかグラウンドなどもあり、それなりにひとけもある。
とりあえず初心者らしく、定番ポイントで定番の写真を撮るのに専念することにした。

すべてが手探りなので、レンズを換え、シャッタースピードや絞りを変えてあれこれ撮る。
画角としては、あまり広角でも面白くないし、望遠までは必要ない。135mmレンズが一番しっくり来たから、35mm換算なら200mm程度がよさそうだ。赤帯や白レンズの人たちが70-200mm f2.8なんかをよく使っている理由が分かった。
私の今回の設定は、ISO100固定で、絞りはF11前後。シャッタースピードは、明るい部分なら15秒から20秒くらい。暗いところなら30秒くらいで撮った。
30秒以上が必要なところは少なかったから、リモートケーブルは持ってなければ必要ない。ただし、ブレ防止のため、必ずタイマーで撮るようにした方がいい。
あと、吹きさらしで風がけっこうあるから、三脚はある程度しっかりしたものが必要だと思う。やわい三脚だとブレるだけでなく、倒れそう。

コンビナートの明かりは夜通し消えることがない。工場は24時間休むことなく稼働しているから。まさに不夜城だ。眠らない街は六本木だけではないのだ。
夕刻から夜、そして夜明けまで、シャッターチャンスは長くある。ただ、煙は最初出ていたのに、途中から止まってしまったから、時間帯によって変化がありそうだ。長時間露光になるから、煙が出てた方がドラマチックな写真になる。

印象的な部分を切り取りたいという意気込みはあったのだけど、初めてで勝手が分からず、暗くもあって、思いは空回りした。
通うことで見えてくるところが多々ありそうだけど、四日市は通うには遠すぎる。高速代もかかる。

このあたりのキラキラも素敵だ。工場萌えの人の気持ちが初めて理解できた。
この感覚をどう表現したらいいのか、言葉を探しても見つからないもどかしさを感じる。普通の夜景とは受ける印象がまったく違う。もっとミクロ的で、繊細な世界だ。パイプのうねうね感とか、縦横に走るラインとか、その組み合わせが生み出す光景は現代アートのようでもある。
美しさを狙って作られていないところに美を発見する喜びみたいなものもあるのかもしれない。
これまで知らなかったこの世界の美しさを、今日あらたに知ることとなった。

最後に四日市港ポートビルを遠くから撮って、終わりとした。
工場フリークになるための第一歩としては、まずはこんなものだろう。まだ撮り足りない気持ちがあって不満は残ったけど、それはまた次回のお楽しみということにしよう。
次はやはり、ポートビルの展望台から撮ってみたい。
あと、他の撮影ポイントも見つけたいし、次は電車で行こうかとも考えている。ロケーションはやはり歩いて稼がないとどうしようもない部分があって、歩けば見つかるものも多い。今回でだいたい現地の雰囲気は掴んだ。少なくとも、もう一回は行きたい。
冬になって日没が早くなってからの方がいい。明かりが早くついて、工場が昼のシフトなら、今回とはまた違った写真が撮れるんじゃないか。冬の方が空気も澄んでいるし。
お近くの方は、ぜひ一度行ってみることをオススメしたい。こんな世界があったのかと、きっと感銘を受けるはず。すぐにでも行きそうな人が一人、二人と、頭に浮かぶ。