
PENTAX K100D+TAMRON SP 17-35mm f2.8-4 / TAMRON 70-300mm f4-5.6 Di
日間賀島初夏の呼び物として、イルカとのふれ合い体験イベントというものがある。毎年5月、イルカが島にやって来て、2ヶ月間をここで過ごしていく。
始まりは1995年の夏。南知多ビーチランドにいるイルカの研究とトレーニングを目的として始められたものだった。日頃水族館の狭いプールにいるイルカを海で泳がせたらどういう反応をするか、それはイルカにとってよいことなのかどうなのか、囲いをした海で飼育展示する方法は可能なのかどうかといったことを見るためだったという。
人間の考えでは、水槽よりも広い海の方が嬉しいに決まってると思いがちだけど、必ずしもそうではないようだ。イルカにもそれぞれ性格があって、海に出て喜ぶやつもいれば、逆にストレスを感じて弱ってしまうのもいるという。飼い猫を考えても、ずっと家の中で育った猫は外へ出ることを怖がる。あれと同じだ。危険な広い世界と安全な狭い世界と比べたら、安全な方がいいやつもいる。海に出したからといって単純にイルカの保養になるわけではない。
毎年いろいろなイルカが交代に来ていて、南知多ビーチランドとしては一定の成果があがったということで、3年前から香川県のドルフィンセンターにバトンタッチされた。今年も去年に続いてメイちゃん10才とガッちゃん6才のメス2頭がやって来た。あんな遠いところから船で来たのかと思いきや、トラックに乗せて陸路で運んでいるそうだ。それは大変だ。
外海には出られないものの、200メートル×100メートルほどの入り江の中を自由に泳ぎ回れるようになっている。ここは海水浴場でもあるので、海開きをしてからは人間との混浴になる。こんな海水浴場もめったにない。
商売用に呼んでいるわけではないイルカたちだけど、ふれ合い体験のプログラムが用意されている。それには3段階あって、見学だけなら400円、生け簀でのタッチとエサやりは1,000円、一緒に海に入って泳ぐと2,000円という料金体系になっている。なんとなく怪しい商売みたいだな思っても口にしてはいけない。これは健全なプログラムなのだ。
各コース1時間ごとに交代であって、午前、午後とそれぞれチャンスがある。休日などで人が多いときは定員制となるから、見られないことも出てくるかもしれない。私たちは生け簀でのタッチ&エサやりコースを選択した。このときは貸し切り状態だった。こういう体験ものは事情が許すなら平日に限る。
上の写真はトレーナーさんがイルカを呼び寄せてトレーニングをしているところだ。これを見るのは無料だから、お金の心配はしなくていい。イルカを見た瞬間に400円を取られてしまっては、海から目を背けて歩かなくてはいけなくなってしまう。

望遠レンズでイルカとトレーナーさんに迫ってみる。結局、この日望遠を使ったのはここだけだった。もう少し鳥とか撮るものがあると思ったけど、出番がなかった。冬場に行けばたくさんの渡り鳥たちがいるに違いない。
水着を持っていけば、こんなふうにして海の中でイルカとふれあうことができる。ただし、その場合、写真を撮ることができないという難点がある。このためだけにデジの水中ハウジングを買って持っていくというのは贅沢な話だ。元々持っているなら持参するといいと思う。これだけ至近距離からイルカの水中写真を撮れるチャンスはめったにない。

トレーナーさんに案内されて特設生け簀会場へとやって来た。早速イルカたちが出迎えてくれる。おー、賢いぞ。水槽の仕切りなしでこれだけ近くから見ることも初めてだ。
それはいいのだけど、踏ん張るための足場が危うくて、うっかりすると海に落ちそうになるので焦った。手を伸ばしてイルカを触りたいし、右手に一眼のデジを持っているし、水しぶきはかかるしで、忙しいったらない。舞い上がって我を失いそうになる。海に落ちてもこの時期だから自分は平気でも、デジは即死だ。笑い話の思い出では済まない痛手を負うことになる。
イルカプログラムのときは、あまりいいデジやレンズは持っていかない方がいいかもしれない。あとから考えたらここだけはコンパクトデジでもよかったのだ。写真がメインじゃなくてタッチが目的なんだから。荷物は事務所で預かってもらえる。

大きな口を開けて威嚇しているわけではない。挨拶をしてくれているところだ。控えめに伸ばそうとしている私の手がちらっと写っている。最初はちょっとおっかなびっくりだった。
バンドウイルカの歯は何本くらいあるでしょうという質問に80本くらいと答えたら、ほぼ合っていた。だいたい70本から100本くらいの間だそうだ。個体差が意外と大きい。
イルカも魚などを食べる肉食性ではあるけど、サメのような歯は持っていない。獲物に食いつくという捕食ではなく、基本的に魚は丸呑みだ。このエサやりのときも、魚を差し出しても自分から食いつくということはなかった。放り込まれるまで口を開けて待っていて、入ってきたものを飲み込んでいた。
イルカは言うまでもなく、ほ乳類で、肺呼吸をしている。頭の上に呼吸をするための穴を持っていて、そこから空気を吸い込んで肺で呼吸をする。呼吸の周期は40秒くらいだそうだ。呼吸のとき、ここからプシューと海水を噴き出すので気をつけないといけない。満面の笑みでイルカを眺めていると、顔中イルカの吹いた塩水だらけになってしまう。顔をびちゃびちゃにしながらにこやかな大人は格好悪い。
海の生き物とはいえ、海水ばかり飲んでいると死んでしまう。イルカも人間と同じように尿で水分が出てしまって脱水症状を起こすことがあるという。水分は食べた魚から摂取する仕組みになっている。

おさわりメニューは、体の各部位で、頭だけでなく、背中やおなか、胸びれや背びれ、尾びれをそれぞれ触らせてくれる。トレーナーさんの合図でヒレを差し出したり、おなかを見せたりするイルカの賢さをあらためて知る。全部分かっているようだ。
体はどこもツルツルした感覚で、思った以上に固い。もう少しぷにゅっとした感じかと思ったら、ぐっと押してもへこまないくらいの固さを持っている。魚とはまったく違う質感だ。
ヒレは脂肪でできている。骨が入っているヒレは胸びれだけで、背びれや尾びれには骨がない。胸びれには人間の手に相当するような5本指の骨が入っている。
目はよく見えているようで、色も感じているのではないかと言われている。特に水中での動体視力に優れていて、空中ではぼやけてよく見えていないらしい。人間とは逆の感じだろうか。

私とツレと、エサをあげているところ。エサは何だったか。聞いたような気がしたけど忘れてしまった。アジだったか。
もっと手を伸ばしてやりたいのだけど、片足で支えて踏ん張っているだけだから、これ以上乗り出すと身の危険があって伸ばせない。右手にデジを構えた窓の下のロミオみたいになっている。あとから腹ばいになっている小学生の写真を見て、あれをやればよかったんだと気づいた。そうしたら落ちる心配もなくなるし、イルカとももっと近づけた。あそこで腹ばいになっている大人はいないかもしれないけど。

次にふたりには歌を歌ってもらいましょうとトレーナーさんが言った。え、歌は私苦手なんですけと断ろうとしたら、歌うのはイルカの方だった。そういうことか、早合点して歌い出さなくてよかった。どうしてもと言われたら、なごり雪でも歌おうと思ったのに。
イルカの歌声というか鳴き声をどう表現したらいいか難しい。空気孔から声を出しているのだそうだ。
イルカが音声でコミュニケーションを取っているのは有名な話で、もう一つ、水中で音波を発してソナーのような使い方もしていると言われている。コウモリが超音波で世界を認識するように、イルカは音で海の世界を捉えているらしい。いわゆるエコー・ロケーションというやつだ。光が差さないときの海中は暗いから、視力だけでは限界があるのだろう。
ついでにイルカの生態などについて少し書いておこう。
イルカとクジラはまったく別のものと思っている人が多いかもしれないけど、両者は本質的に同じものだ。体の大きさで区別されているにすぎない。人間の分類なんてそんなもので、ワシとタカもそうだ。だいたい4メートルを超えるものをクジラといって、それ以下のものをイルカと称している。ただし、例外がいくつかあって、3メートルくらいのコマッコウやゴンドウクジラがクジラに分類されたりなんてこともある。ベルーガは別名シロイルカとも呼ばれるけど、これは5メートルを超えるから分類上はクジラとされる。
最大のクジラはシロナガスクジラで、非公式ながら30メートルを超えるものもいたと言われている。25メートルプールに入りきらない大きさだ。
イルカの種類は50種類弱とされている。中には川や汽水に生息するものもいる。
イルカは賢い生き物だと昔から言われてきた。実際、体重に占める脳の割合は人間に次いで2番目に大きいことが分かっている。頭が大きい人が賢いとは限らないけど、脳が大きいというのはそれだけ有利には違いない。賢いといっても人間とは別の種類の賢さだから、比較する方が間違いなのかもしれないけど。
常に泳ぎ続けているイルカは、かつて眠らない生き物と思われていた。しかしそれは間違いで、イルカは右脳と左脳を交互に休ませて眠っているということが分かった。左脳を眠らせるときは右目を閉じて、右脳のときは左目を閉じる。大変な特殊能力だ。確か、ドクター中松もそれができると言ってたけど、たぶんウソだと思う。
イルカを漢字で書くと海豚になる。これは中国から入ってきた漢字をそのまま採用したからこうなった。向こうではイルカは海の豚に見えたらしい。日本語のいるかという呼び方の語源は様々な説があってはっきりしていない。個人的には入り江に入ってくる魚みたいなところから転じていったのではないかという気がする。
イルカは現在でも近海にけっこういて、イルカの仲間のスナメリなどは三河湾にもたくさんいる。あのあたりを船でいくと、ちょくちょく見られるという。
鳥羽の先にイルカ島というのがある。元は日向島(ひなたじま)という島で、今はイルカなどがいるレジャー施設になっている。

一通りのタッチと歌が終わったところで、プログラムの締めくくりはジャンプの演技だった。近い、近い。近すぎてカメラに収まらなかった。けど、こんな至近距離でジャンプを見られるのも、ここならではだ。
思った以上に楽しい体験だった。プログラムは10分くらいで、瞬く間に過ぎてしまった。これは絶対にいい。子供よりも大人の方が楽しめるんじゃないだろうか。子供にはこの体験の貴重さがよく分からないはずだから。
今年は7月15日までだから、残りわずかとなった。機会があればぜひ行って、イルカとのふれ合い体験をしてみてください。
しかし、イルカは大変だろう。保養に来ているはずの島で、人間の相手をしなくちゃいけないとは。ストレス解消のはずがかえってストレスにならないといいけど。
どうもありがとう、メイちゃんとガッちゃんとトレーナーさん。最後まで無事に過ごして、元気になって香川に帰ってくださいね。また来年の初夏も来られるように。