勝手に紹介シリーズの今回は、King Gnu(キングヌー)編をお送りします。
今更私が紹介するまでもなくKing Gnuは押しも押されもしないメジャーバンドではあるのだけど、もしかしたら私と同じように聴かず嫌いでいる人もいるんじゃないかと思って紹介します。
現在放送中のドラマ『ミステリと言う勿れ』(
webサイト )で初めてKing Gnuに触れて一発で心を鷲づかみにされたという人もいるかもしれない。
終盤のいいタイミングで流れる『カメレオン』は絶妙で絶品だ。
私が初めてKing Gnuの曲を聴いたのはつい最近といっていい数ヶ月前のことだった。
YouTube を見回っているとき、ちょくちょく『白日』がオススメに出てきてはいたのだけど、なんとなく敬遠する気持ちが強くてあえて聴かないでいた。
一度聴いてみようと思ったのは、
MATSURI のカバー動画 を見たのがきっかけだった(MATSURI についてはいずれ紹介します)。
なるほどやっぱりいい歌なんだと思ってオリジナルの動画を見た(聴いた)ときはけっこうな衝撃だった。なんだ、この山男みたいなボーカルのきれいな高音は、と。
King Gnuの存在はかろうじて知ってはいたものの、『白日』が主題歌だったドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』(
webサイト )は観てなかったし、紅白もここ数年は観ていなかったので、どこかで引っかかることもなかった。よく知らない人気男性バンド、というのが私のKing Gnuのイメージだった。
それを大きく覆すことになったのは、『白日』ではなく『カメレオン』だった。『カメレオン』がなければ、私が勝手に紹介シリーズでKing Gnuを取り上げることもなかった。
なので、まずは『カメレオン』を聴いてみてほしい。それで感じるものがなければKing Gnuとは合わないということでいいんじゃないかと思う。いいなと思えばさかのぼって『白日』やそれ以外の曲も聴けばいい。『白日』は駄目だったという人も『カメレオン』は一度聴いてみてください。
VIDEO King Gnu 『カメレオン』 2022年3月16日
King Gnuの方向性として”J-POPをやる”というのが根幹にある。
歌謡曲のメロディーに日本語を乗せて歌うのがKing Gnuというバンドであり、中心となっている常田大希の求めるところとして語られる。
その集大成のひとつが『白日』であり、『カメレオン』だ。たとえば『カメレオン』の歌詞を読むと、タイトル以外の英語としてはカタカナ表記の”ミステリー”と”キャンバス”の二語しか使っていない。『白日』では英語はひとつもなくすべて日本語で書かれている。
じゃあなんでバンド名がKing Gnuなんだと思うけど、「動物のヌー(Gnu)が春から少しずつ合流してやがて巨大な群れになる習性を持っており、自分たちも老若男女を巻き込み大きな群れになりたいという思いから名づけられた」とのことだ。
バンドのメンバーは男性4人で、中心となるのは作詞作曲とボーカルを担当する常田大希。フロントマンとしてツインボーカルの一方を担う井口理、ベースの新井和輝、ドラムスの勢喜遊という構成となっている。
ただ、常田大希についてはただのバンドマンという狭い枠組みでは捉えられないほどの人物で、音楽家と呼んだ方がいいのかもしれない。
自身、ギターだけでなくチェロやコントラバス、ピアノやキーボードも演奏し、プログラミングや映像もこなす。
MVやバンド全般のデザイン面は常田大希が立ち上げたクリエイティブチーム”PERIMETRON”(ペリメトロン)が行っており、他にも映画『竜とそばかすの姫』(細田守監督/
webサイト )で楽曲を担当したmillennium parade(ミレニアムパレード)は常田大希が主宰する音楽プロジェクトだ。
メインテーマの
millennium parade『U』 (歌は声優も担当した中村佳穂)なども常田大希が作詞作曲をしている。
wikiのページ でバンドの概要などは知ることができる。
更に詳しく知りたいと思ったら、ネットのインタビュー記事を読んでみてください。
King Gnu、怒涛の2019年と『CEREMONY』の裏側を明かす (Yukako Yajima)
King Gnuが泥臭さと共に語る、若者とロックバンドが作る「夢」 (天野史彬)
King Gnu、気品と熱狂が入り乱れる圧倒的なオリジナリティ 「BOY」は新たな王道を切り拓く1曲に (石井恵梨子)
激動の中でつかんだ自分たちのスタンスと未来 ニューアルバムに刻んだ新章の幕開け (柴那典)
常田大希さんに聞く “見つめる先に” (ニュースウォッチ9)
井口理という表現者の源流 (Fukuryu)
VIDEO King Gnu 『白日』 2019年2月22日
King Gnuの出世作は間違いなくこの『白日』だ(最初の頃はずっと”自白”だと思っていた)。
東京芸術大学出身の常田大希が2013年にSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)というバンドを組んで音楽活動を始め、何度かのメンバーチェンジを経て2015年に現在の4人体制になった。
King Gnuと改名したのが2017年。
2019年1月16日にソニー・ミュージック内レーベルのAriola Japanから2ndアルバム『Sympa』を発売したのがメジャーデビューとなる。
それからほどなくドラマ主題歌として『白日』を発表し、その年の暮れの紅白歌合戦に初出場を果たす。
上のインタビュー記事にもあるように、King Gnuにとっての2019年は大いなる飛躍の年であり、同時に大きな波に飲み込まれることにもなった。
そして、これからというときにコロナ禍に襲われることになるのだけど、King Gnuあるいは常田大希にとっては良い方向に作用したのではないか。
商業主義に飲み込まれてもがいていたときに、ふと一息ついて作品本位であることを取り戻す時間ができたんじゃないだろうか。あれだけの才能がそう簡単に潰れることはないにしても、コロナがなければKing Gnuは今とは少し違う形になっていたかもしれない。
VIDEO King Gnu 『三文小説』 2020年10月30日
ドラマ『35歳の少女』(
webサイト )の主題歌として書き下ろされた曲。
2019年以降は発表する曲のほとんどが何らかのタイアップになっていく。そのことについても常田大希は少なからず苦しんだようだ。
ただ、常田大希にとってもうひとりのボーカル、井口理の存在は大きな救いになったのではないかと思う。
常田大希ほどの才能があれば自分一人のボーカルのバンドでも充分やっていけただろう。それでも、King Gnuが大成功を収めるためには井口理のボーカルがどうしても必要だった。井口理のインタビューの中でインタビュアーが”オーバーグラウンド”に引き上げたのは井口理の声だと指摘していたのはその通りだと思う。
この二人が長野県伊那市の小学校で友達だったというのはよくできた偶然か運命なのか。
その後、常田大希と井口理は東京藝大の文化祭で偶然再会することになる。
VIDEO King Gnu 『逆夢』 2021年12月14日
映画『
劇場版 呪術廻戦 0 』(webサイト)のエンディングテーマ。
『鬼滅の刃』に継ぐ話題作となっている『呪術廻戦』の音楽を担当したということでKing Gnuの地位が確立されたといっていい。
主題歌の
『一途』 も担当している。
VIDEO King Gnu 『Tokyo Rendez-Vous』 2017年4月27日
さかのぼって2017年。MV第一弾として発表されたのがこの 『Tokyo Rendez-Vous』だ。
この後発売された1stアルバムのタイトルも『Tokyo Rendez-Vous』だった(2017年10月25日)。
今とはスタイルも音楽性もだいぶ違っている。これではメジャーシーンで大ヒットを飛ばすのは無理で、こういう調子で自分たちが求める音楽性を変えられないまま終わっていくバンドも多いのだろう。
King Gnuがそれらのバンドと違っていたのは、ちゃんと売れることを目指していて、その実力があったことだ。
成功してお金持ちになりたいとかそういうことではなく、大勢の人が喜ぶ音楽を作って届けたいという思いが強かったのではないかと想像する。
そういう意味でいうと、常田大希という音楽家は芸術家肌ではなく職人気質といえそうだ。
VIDEO King Gnu 『Prayer X』 2018年9月19日
インディーズ時代の1stCDシングル(デジタルシングルとしては
『Flash!!!』 が1stシングル)。
後のKing Gnuにつながる曲だと感じられる。
インディーズながらテレビアニメ『BANANA FISH』(
webサイト )に採用されたくらいだから、2018年には業界ですでに知られる存在となっていただろうか。
VIDEO King Gnu 『傘』 2019年10月11日
『白日』以降、
『飛行艇』 、
『Teenager Forever』 、
『泡』 など、シングル曲はすべてドラマ、映画、CMのタイアップが続く。
そのため、2020年1月15日に発表された3rdアルバム『CEREMONY』の製作では悩んだとメンバーは語っている。アルバムとして内容が薄いのではないかと考えていたようだ。
そんなメンバーの心配をよそに、オリコンでは最高1位になっている。
残念ながらYouTubeではアルバム単位で聴くことはできない(Premium会員なら聴ける?)。
VIDEO King Gnu 『BOY』 2021年10月15日
テレビアニメ『
王様ランキング 』(webサイト)のオープニング・テーマ。
『白日』の大ヒットを受けて営業側からするとあの路線で続いて当てて欲しいと願っただろうけど、King Gnuは良くも悪くもそれを裏切り続け、タイアップという制約がある中でも様々な音楽的試みを行ってきた。人の求めに寄り添ってはいるけど媚びてはいない。長い目で見るとそれは正解だと思う。
常田大希は半分冗談としながらKing Gnuはアルバム5枚で終わりにすると語っているけど、それは案外本当になるような気もする。
少なくとも『白日』一発で終わっていいとは思っていなかったはずで、その気になれば書けますよという答えが3年後の『カメレオン』だったのではないかと思ったりもする。
VIDEO King Gnu 『The hole』 2019年1月16日
タイアップでもシングルでなく、2ndアルバム『Sympa』に収録された曲。King Gnuとしては珍しいバラードだ。
King Gnuの隠れた名曲といいたいところだけど、YouTubeで3千万回以上も再生されているので隠れていない。
でも、King Gnuで何が好きか訊かれて、『The hole』とか好きだなと答えると、King Gnuファンから、おっ? と思ってもらえるだろう。
今後ますますKing Gnuの曲をどこかで耳にすることになるはずだ。
今更出遅れたと思わず、今からでも追いかけておくとぎりぎり間に合うと思う。
聴いて嫌いなら仕方がないけど、聴かず嫌いはもったいないですよという私の紹介が誰かとKing Gnuとをつなぐ橋渡しになってくれたら嬉しい。
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