
Canon EOS 20D+EF 75-300mm f4-5.6 IS
鍋田干拓をあとにした我々が次に訪れたのが、稲永公園内にある名古屋市野鳥観察館だった。
庄内川河口の稲永公園内にそれはある。広く言えば藤前干潟に隣接してるとも言えるかもしれない。私の中の藤前干潟のイメージは、日光川の河口付近で、もう少し西側だと思っている。実際どこからどこまでを藤前干潟としているのかはよく分からないのだけど。
ここも前に一度行ったことがある。藤前干潟の帰りに寄ったのか、別の日に単独で行ったんだったか。風の強い寒い日だったような覚えがある。この日も強風が吹き荒れていて、とてもじゃないけど屋外での撮影は無理だった。歩いていたら涙が風に吹き飛ばされた。もちろん、感動して泣いていたわけではない。
早々に野鳥観察館に逃げ込むと、そこはぬくぬくの世界だった。駐車場にとめた車から降りて急速冷凍されて、観察館で急速解凍された。これは体によくない。水分が出てしゃびしゃびになってしまいそうだ。
観察館の中は暖かくていいのだけど、ここからでは鳥までの距離が遠い。海岸沿いの水辺でも100メートル以上ありそうだし、海の上の鳥は数百メートル先だ。備え付けの双眼鏡で見れば個別に確認できるものの、一眼の望遠ではまるで歯が立たない。デジスコの3000mmでさえアップにならない距離感だ。外から撮っても遠いには遠いけど、写真重視なら表で撮るべきだろう。観察だけなら館内からでも楽しめる。
観察館の中には1階、2階あわせて30台の望遠鏡が備え付けられていて、自由に使って鳥を見ることができる。館の人も常駐しているから、いろいろ教えてもくれるし、話しかけなければ一人でも見ていられる。野鳥検索用のパソコンや、各種鳥の剥製なども置かれている。
最近はデジスコセットも置くようになったようで、頼めば使わせてもくれる。KOWA提供のスコープはTSN-664とTSN-884、デジはEX-Z1080があった。自分のSDカードを持っていけば鳥撮りのデータも持ち帰ることができる。
ここは昭和60年にオープンした施設で、一時閉鎖という話があったとかなかったとか。藤前干潟がラムサール条約に登録されたから、当分は大丈夫だろう。藤前干潟の北にもこういう観察館が必要だと思うけど、今のところ予定はなさそうだ。あちらもまったく歓迎ムードがなくて、名古屋市もまるで力が入っていない。

このときはちょうど干潮を少し過ぎたくらいの時間帯に当たっていて、観察館の前に大きな干潟ができていた。普段ならここにシギやチドリなどが集まってくるところなのだろうけど、この日は強風だったからか、まったく姿がなかった。ユリカモメなどのカモメたちがうずくまるように座り込んでいるだけで。
他の鳥たちも全体的に少ない印象だった。カモは、オナガ、マガモ、キンクロ、ヒドリといったあたり、ユリカモメはたくさんいた。普段は群れて飛んでいるというハマシギもこのときは見かけなかった。遠すぎて見えていなかっただけかもしれない。
猛禽も風が強すぎて飛ばなかった。もう少し早い時間には多少飛んだらしい。鳥撮りとしての収穫はあまりなかった。

キンクロハジロが少々。東京の淡水にはこいつらが大量にいる。名古屋市内では数が少ない。海で見るとちょっと違和感がある。海水でも大丈夫なんだ。
風の強さは、この海面の波立ち具合で分かってもらえると思う。岸壁と干潟の間でさえこの状態だった。

観察館の中の様子はこんなふうになっている。Nikonのスコープが並ぶ。
日曜の夕方前という時間ではあったけど、わりと訪問者があって、7、8人くらいはいただろうか。入れ替わりでもう少しいたかもしれない。みんなが鳥の人ではないにしても、けっこう楽しんでいたようだ。チビたちも親に連れられてきていた。

ハマシギの舞いは見られなかった代わりにカモメの飛翔は見られた。ユリカモメだったか、セグロカモメなども混じっていたのか。遠すぎて判別不能。

これはユリカモメじゃない気がする。セグロカモメのような違うような。カモメの見分けも難しい。
このあたりで見られるカモメとしては、オオセグロカモメ、カモメ、ウミネコ、コアジサシなどがいるようだ。
年間を通じて100種類以上、冬のカモはあわせて数万羽になるという。
名古屋市はここにゴミ焼却場を作ろうとして市民の反対にあって断念したという経緯がある。そのとき藤前干潟が注目を集めることになった。それまで市民の大部分は名古屋に野鳥の楽園の干潟があるなんて知らなかったに違いない。結果的にそれがゴミの分別につながっていくのだけど、ここは残されてよかった。全国的に干潟というのもが消えていく中で、わずかでも残していくことに価値はある。

周辺は典型的な工場地帯で、港の風景が広がっている。名古屋港も埋め立てに次ぐ埋め立てで、自然の海岸線などはほとんど残っていないだろう。
去年が名古屋港開港100周年だった。100年前とはもはや比ぶべくもなく、ここ20年、30年でも大きく様変わりしているのだと思う。金城ふ頭ができたのが1990年と、まだそんなに昔のことじゃない。
観光地化することには失敗した。名古屋港水族館やイタリア村だけでは弱い。場所的にどん詰まりに位置していて、他の場所との連絡が悪いのもよくなかった。おそらく、今後とも劇的な発展は望めないだろう。

藤前干潟は、野鳥観察館から見てちょうど正面右手あたりになる。見えている橋が日光川大橋だろうか。だとすれば、その右側には日光川公園とサンビーチ日光川があるはずだ。
藤前干潟の方に公共交通機関で行くのは難しい。サンビーチ日光川行きのバスがオールシーズンあるのかどうか。名古屋市野鳥観察館は、あおなみ線が開通して行きやすくなった。野跡駅(のせきえき)を降りて10分も歩かない。車なら駐車場も無料だ。
このあたりの地名は読みが難しい。野跡は「のせき」と読ませているようだけど、もともとは「のぜき」と濁っていたようだ。稲永の「いなえ」も地名は「いなえい」だからややこしい。

冬は遠くの景色が本当によく見える。夏場は遠くの山がこれほどくっきりは見えないはずだ。
ここで吹いていた強風は、この地方特有の伊吹おろしというやつだろうか。見えている山が伊吹山ではないにしても、あっちから吹いてくる風だ。
冬の富士山も撮りに行きたいところだけど、名古屋からだと近いようで遠い。

観察館は夕方4時半まで(月曜定休)。日没が近づいたところでぼちぼち帰ることにする。
防風林も風よけにどれくらい役に立っているのか。なければもっと風が強くなっているのだろうけど。
ここのベストシーズンは、やはり冬だ。渡りの鳥たちで賑やかになる季節だから。しかし、寒さが強敵になるので、なるべく穏やかな冬晴れの日を選びたい。
時間は午前の方がいい。というのも、観察館が真西を向いてるから、午後からは逆光になってしまう。それと、当然、干潮時の方が楽しみが多い。満潮のときはただの海だ。
飲食施設は一切ないからお弁当持参で行きたいところだけど、観察館の中は飲食禁止になっている。隣に建っている稲永ビジターセンターというのも学習施設というからお弁当スポットではないだろう。暖かい日なら、観察館の前の芝生に座って海と鳥を見ながらランチというのもよさそうだ。
写真に関しては、デジスコじゃないと厳しい。一眼の望遠では限界がある。ここの鳥は人に慣れてなくて、少しでも距離を詰めるとさりげなく逃げていくし。
次は春の渡りシーズンあたりで行けたらいいなと思っている。