
PENTAX istDS+smc PENTAX-DA 18-50mm(f3.5-5.6 AL), f5.6, 1/100s(絞り優先)
雑司ヶ谷霊園から鬼子母神へ向かって歩いていたら都電の線路脇に出た。しばらく待っていると、遠くから小さな電車がのんびりやって来るのが見えた。ああ、あれが都電か。記念に一枚写真を撮ろうとカメラを構えて待つ。そんな私を見つけた運転士さんが私のために徐行運転をしてくれたように見えたのは気のせいだったか。あ、あんなところにまた電車男がいるなと思ってサービスしてくれたのかもしれない。おかげで、にわか電車男の私が、電車マニアっぽい写真を撮ることができて喜んだ。ありがとう、都電の運転士さん。親切のせいでダイヤに乱れが出なかったでしょうか。
かつて東京中を静脈のように線路を張り巡らしていた都電も、今は荒川線を残すのみとなった。
明治44年に創業以来、大正、昭和と都民の足代わりとなって働き続け、戦争で壊滅してもまた復活した都電。しかし、自動車の普及と街の近代化には打ち勝てず、業績悪化のために昭和40年代に35系統も廃線となり、姿を消すのも時間の問題となった。
荒川線も当初は廃止予定だったのだけど、専用の軌道が多かったのと、代替の交通機関がないということで、21世紀の現在に生き延びた。最後に乗った2系統を一本化して荒川をメインに走ることから荒川線と名づけられた。
もともと王子電気軌道が開業したものを昭和17年に東京市が買い取ったという経緯がある。だから、昔から知っている人はいまだに王子電車、略して王電と呼んでいるそうだ。

夕暮れ時の荒川線は、ますますノスタルジックな哀感が漂う。線路沿いをのんびり歩いていると、ここが21世紀の東京都内だということをほんの一瞬忘れそうになる。そしてつぶやく言葉は、昭和だねぇ。
それにしてもけっこうひっきりなしに電車が行き交う。一両編成だから田舎の電車のようにほとんど利用客もないのかと思うとそうではなく、今でも一日5万6,000人が利用するというからなかなかの人気電車だ。この人数は、多くの人が通勤、通学に使っているということになる。都電、侮りがたし。ただ昭和18年頃は一日193万人も乗客があったというから、当時を知ってる関係者にとっては充分すぎるほど寂しい光景なのだろう。
三ノ輪橋から早稲田までの30駅、12.21キロを平均速度13キロで49分かけてのんびり走る。その間の20パーセントは路面電車となって、車と並走することになる。当然、赤信号も止まらなければならない。用意ドンで自転車と競争したら、たぶん自転車の方が早く着くと思う。マラソンランナーのスピードを1キロ3分として、12キロなら36分となるから走った方が早いとも言える。
運転のさじ加減は運転手の気持ち次第。コンピューター制御なんて洒落たものはない。ダイヤよりも人情優先。遅れた人が走ってる姿を見れば待っている。へたすれば駅じゃないところで手を挙げれば止まってくれそうな気さえする。もちろん、それはないけれど。
料金は一駅でも終点までいっても一律160円。前払いシステムで切符もない。観光客用に一日乗車券が400円で売っている。一駅ごとに降りて散策して、また乗ってと、一日都電の小旅行なんてのも楽しそうだ。
私はこれまで駅と書いているけど、実はこれは間違いで、正しくは停留所となる。都電荒川線は、電車ではなくバスの扱いに近い。
私のにわか仕込みの知識によると、現在運行している車両は、一番多い7000型(23両)、一番上の写真の7500型、1990年(平成2年)に導入された8500型の3種類となっている。最新型の8500型を以前の車両と入れ替えるはずが、コスト面の問題で5両で生産売り切りになってしまった。ただ、これは姿があまり都電らしくないので、全部8500型に切り替わらなくてよかったと思う。
以前主力だった6000型は、ライトが一つなのでみんなから一球さんの愛称で呼ばれている。しかし、そんな知識は一般生活では役に立たないどころかむしろ邪魔になることもあるので、無闇に披露しない方がよさそうだ。平成14年まで走っていたというから、東京の人なら見たことがある人が多いと思う。
今年2007年の5月に、イベント用の最新型9000型が新造されてお披露目になるそうだ。もし見かけたら写真を撮りたい。その前に、あらかわ遊園や、江戸東京たてもの園に保存してある古い車両の写真を撮りに行くことが先か。

線路という縛れる不自由に何故人はその先の自由を夢見るのだろう。電車に乗りさえすればどこか遙か遠くの街に連れて行ってもらえる気がする。どこまでも続いているように見える線路にも必ず終わりがある。いや、終わりがあるからいいのか。環状線である山手線にロマンはない。
通称ちんちん電車は、車掌がいなくなってもチンチンと発車のベルを鳴らし、今日も三ノ輪駅を発車する。春には素盞雄神社の梅が、初夏には停留所のバラが見送ってくれる。
2000年に新しくできた荒川一中前を通り、昭和が色濃い荒川区の商店街へと入っていく。ここは金八先生でもお馴染みの街だ。下町風情の町屋駅を通って、住宅や町工場を過ぎると、あらかわ遊園が見えてくる。次は都電が休むための荒川車庫。王子稲荷のある王子駅のあとは、飛鳥山。東京桜名所のひとつである飛鳥山公園がある。桜シーズンはかなり混雑するだろう。高校、大学が沿線にあるので、登下校時は学生が多くなる。
次は巣鴨のとげぬき地蔵がある庚申塚だ。ここで一気に乗客の平均年齢が下がったり上がったりする。4の付く縁日の日は相当混雑するようだ。サンシャインを60が見えてきたらもう池袋は近い。雑司ヶ谷霊園のある雑司ヶ谷、鬼子母神の鬼子母神前、学習院から遠い学習院下、ロマンチックな名前の面影橋、そして終点早稲田に到着。ここで唐突な終わりを迎える。ここは池袋でもなく、新宿でもない、早稲田だ。こんなところで降ろされても、と思ってしまうけど、続きは都営バスでどうぞということらしい。せめて新宿まで行ってくださいという願いが聞き入れられることはない。三ノ輪の方も浅草まで伸びれば、観光電車として再びスポットが当たると思うのだけどどうなんだろう。
なにはともれ、都電荒川線の旅はこうして終わる。ご乗車ありがとうございました。お忘れ物のないようお降り願います。チンチン。

東京人でもない名古屋人のくせにPASMO(パスモ)を持っている生意気な私。これで東京人になったつもり、というわけではないのだけど、一度どんなものか試しに買ってみた。デポジットの500円が難点とはいえ(PASMOが不要になったら返ってくるけど手数料が取られる)、便利は便利だ。電車や地下鉄に乗るとき、いちいち駅のパネルを見上げて切符の代金を確認して自販機で買うという手間が省ける。それに、PASMOは財布に入れたまま、財布を改札のタッチパネルにかざすだけで通過できるのだ。これがけっこうカッコいい。と自分では思ってる。かなり読み取り精度は高い。
このPASMOだけど、都電でも使える。最新のPASMOでレトロな都電に乗るというギャップが面白い。近いうちにこれで乗ってみよう。
東京ノスタルジック都電の旅、おすすめです。私も近いうちに都電というものに一度は乗ってみたいと思っている。え、乗ったことないのかよ! というツッコミが聞こえてきそう。