
PENTAX istDS+TAMRON 28-200mm XR(f3.8-5.6), f7.1, 1/400s(絞り優先)
タダより高いものはないと世間では言う。名古屋人はタダより好きなものはない。大阪人が安いという言葉に反応するより激しく、名古屋の人間はタダということに異常な反応を示す。オマケやお買い得といううたい文句にも弱い。東京都庁の展望室で、おい、そこの名古屋人! と大きな声で叫べば、たぶん10人に1人は振り返るだろう。そう、東京都庁の展望室はタダスポットなのだ。
バブル経済全盛期に建てられることが決まって、バブルが弾ける前の1990年に完成したこの巨大建造物は、当時バベルの塔ならぬバブルの塔と呼ばれた。建築費用は1,600億円。年間で維持費に40億円かかるという。石原慎太郎め、と思ったらもっと前の鈴木俊一だった。青島幸夫じゃなかったか。
設計者は旧東京都庁舎も手がけた丹下健三(東京カテドラル聖マリア大聖堂、フジテレビ本社ビル、新宿パークタワーなどもこの人だ)。高さは243メートルで、完成時はサンシャイン60を抜いて日本一の超高層ビルだった。現在は横浜ランドマークタワーに抜かれ、東京一の地位もNTTドコモ代々木ビルに追い落とされ、名古屋のセントラルタワーズよりも低い全国7位となっている。それでもまだ六本木ヒルズより高い。真下から見上げると首を痛めそうになると同時に田舎者だということがバレてしまうので気をつけたい。写真なんか撮ってたら完全にアウトだ。
デザインはパリのノートルダム大聖堂などのゴシック教会を模したという言われ方をすることがあるけどどうやらそれは違って、下部と同じ体積でこの高さにするとあまりにも容積が大きくて威圧感がありすぎるということで、上部の間を空けて重くなりすぎないようにした結果が大聖堂風になったというのが実際のところらしい。この奇抜な設計があとあと大きな問題になるということを丹下健三は少しでも考えていただろうか。

行ったのは土曜日の夕方で、まずまずそれなりに賑わっていた。昼間のもっと早い時間か、夜景時間はもっと人が多いのだろう。外国人率も高い。
入口で荷物検査を受けたのも、場所が場所だけにそれはそうだなと思う。タダの場所はある意味危険な場所でもある。
展望室はツインの南と北の両方にあって、それぞれ別の直通エレベーターで登るようになっている。エレベーターは超高速で耳がキーンとなる。202メートルの45階展望室まで55秒。横から見たら相当速いと思う。
開館時間が少しややこしいことになっている。北展望室が9時半から23時までで、南展望室が9時半から17時半までなのだけど、北が第2、第4月曜日の定休日のときは南が23時まで開くことなる。南は第1、第3火曜日が定休日なので、行くときはあらかじめ調べておいた方がよさそうだ。
出来た当時は両方ともぐるり360度見渡せたのが、2003-2004年のリニューアルによってカフェやみやげ物売り場が登場して制約が増えた。デートスポットとしてはよくなった半面、見えない方向も多くなったので、残念と言えば残念だ。
いろいろ条件を考え合わせると、北が休みの日に南展望室へ行くのがオススメということになるだろうか。北は東側が完全にレストランに占領されて見ることができない。南は北がさえぎられるだけでその他は見ることができる。特に夜景の場合は夜の南がいい。
北には「博品館 TOY PARK」があり、東京みやげなどを売っている。東京限定のキティちゃんや、懐かしのモンチッチなどもあった。昔のガチャガチャなどもお父さん世代にはたまらない。東京みやげは、やはり日本人よりも外国人が好んで買っていくようだ。あと、「東京水(とうきょうすい)」というのが売られていてちょっと興味を惹かれた。東京のおいしい水ではなく、ただの水道水なのだけど、何故か買ってしまう人がたくさんいるそうだ。値段の100円はネタとしてのお土産としては安いけど、水道代と思えば高い。
32階には食堂職員があって、一般人でも食べられるようになっている。職員用ということで値段も安くてそれなりに美味しいらしい。昼はここで食べて展望台へ行けばかなり安上がりなデートになる。

こうして見ると六本木ヒルズの圧倒的なボリューム感がよく分かる。ビルの大きさは高さがすべてじゃない。それにしてもこの太っちょぶりはただごとじゃない。周囲の中くらいの高さのビルだって、地方へ持っていけばどれも高層ビルとしての存在感を充分発揮できるものばかりなのに、ここでは小さくさえ見える。5階建て程度のビルは、1億円の前の100円のように存在感が弱い。ヒルズ族への道のりは果てしなく遠い。
六本木ヒルズの左に遠くフジテレビの丸い銀色展望台が見えている。あの方角がお台場だ。
その他の目立つ建物としては、東京タワー、新宿パークタワー、東京オペラシティ、NTTドコモ代々木ビルなどがあり、晴れた日には東京湾のレインボーブリッジ、横浜ランドマークタワー、富士山まで見えるという。下へ目を移せば、新宿中央公園、明治神宮、新宿御苑なども見ることができる。東京はまとまった緑が多い。

こんな東京都庁も、デザイン最優先で建てられた結果、築15年にしてかなりのガタガタぶりを発揮し始めた。天井は至る所で雨漏りして、電気はつきっぱなしになり、空調もおかしく、いろんなところでトラブルが続出してるという。もし全面的にリニューアルするとしたら1,000億円からかかってしまうんだとか。しかも、10年計画で直していたら、直し終えたとたんに最初に直したところのガタがきてそれを直して、と永遠に直し続けることになる。いっそのこと車を乗りつぶして買い換えるように、ガタボロまで使ってから新しく建てた方がいいという話も出ているらしい。石原慎太郎のまばたきがますます増えそうな話だ。
超高層ビルでバケツを置いて雨漏りを受けているという図は個人的には嫌いじゃない。それはそれで日本らしい風情があっていいではないか。受けるのが金だらいなら尚いい。
東京都庁のビルは、敵が攻めてきたとき、巨大ロボットに変身して帝都を守るという。たぶん、中心部分の胴体と両サイドのタワーが切り離されて、ガッシャンガッシャン歩行しつつ展望室あたりから折れ曲がってロケットでも発射するのだと思う。そういえばこのデザイン、マクロスに見えてきた。やはり艦長は石原慎太郎で、ダイダロス・アタックを撃つ号令をかけるのだろうか。
でもやっぱり平和が一番。都庁は変身しないままがいい。年間170万人の観光客が来るというし、オンボロになってもこのままであって欲しい。
ここに登れば、1,500円の六本木ヒルズ展望台も、サンシャイン60も、テレコムセンターも、東京タワーも行く必要はないかもしれない。東京タダ・スポットは探せば意外と多い。都庁は思ったよりよかった。今後とも、名古屋人代表として東京お上りさんツアーに行くときは積極的にタダのところを見つけていきたい。タダより安いものはない、そう信じて。