
PENTAX istDS+Super Takumar 28mm(f3.5), f3.5, 1/13s(絞り優先)
紅葉も終盤を迎え、行く予定をしていたところは残り数ヶ所となった。今年は暖かい日が続いて、紅葉がかなり遅れたものの、その暖かさが幸いして長く楽しめている。今のところまとまった雨も降らないから落葉も少ない。愛知県内は今週一杯から来週前半くらいまでまだ持ちそうだ。落ち葉になれば、それもまたいい。
今日向かったのは名古屋の隣にある瀬戸市の定光寺。おととしデジカメを買ってすぐに訪れて以来、何度か行っている場所なので馴染み深い。好きな場所のひとつだ。「じょーこーじ」という響きがいい。定光寺進とかいう名前に生まれてもよかったと思えるくらいだ。こんにちは、定光寺進です。ラジオのDJになれそうな名前だな(根拠はない)。
参道入口には「尾藩祖廟」の石碑が建っている。尾張藩初代藩主の徳川義直(よしなお)は、かつてこのあたりによく鷹狩りに来ていて、そのとき立ち寄った定光寺が気に入って、自分の死後はここに自分を葬るようにと遺言を残した。代々の尾張徳川藩主は光友が建てた建中寺(けんちゅうじ)に墓があるのに、義直の墓だけはこんな瀬戸の山奥にある。
二代藩主光友によって作られた石橋(直入橋)を渡ると、登りの石段が待っている。165段、徒歩10分という看板がある。この登りがけっこうきつい。けど、10分はかからない。それはお年寄り時間だ。私などはまだまだ若いので8分くらいで辿り着く。もちろん、息ひとつ、ハァハァ、あがってる、ハァハァ、わけないですってば。ふぅー。ヒィヒィフー、ヒィヒィフー。
かつてこのあたり一帯は、名古屋の奥座敷とも、尾張の嵐山とも呼ばれていたんだとか。吉良ワイキキビーチ並みにたとえが大げさすぎると思うけど、そう呼んだ人がいるのだからしょうがない。ふと、三谷幸喜の名言を思い出した。「エビちゃん似の人と本物のエビちゃんはやっぱり全然違いますね」
前の通りは、殿様街道と呼ばれていた。初代藩主の菩提寺ということで、歴代の尾張藩主もたびたび訪れていたことからそんなふうに言われるようになった。現在はほとんど面影は残っていない。
それにしても、今日の定光寺は妙にカップル確率が高かった。見かけた人の3分の2は若い二人組で、こんな奥地の紅葉スポットでこういう客層は珍しい。私としては写真に彩りを添えてくれてありがたかった。

應夢山定光寺は、1336年、覚源禅師によって造られた臨済宗の古刹だ。どういういきさつでこの地に建てたのかなど、詳しいことは分からない(私が分かってないだけ)。本尊は地蔵菩薩で、御利益は延命長寿や安産など、やや漠然とした印象を受ける。ただ、全体的に中国の影響が強いのは感じる。定光寺をよく知っている人でも、どういうお寺なんだと訊かれると意外と答えに困るんじゃないだろうか。この地にまつわる伝承とかそういったたぐいの話も聞かない。覚源禅師は特別なお告げでも受けたのだろうか。
1534年に再建された本堂「無為殿」は、唐様式の茅葺きの建物で、室町時代の特徴をよく残していて、国の重要文化財に指定されている。見た目も貫禄があって、やるなと思わせるものがある。
拝観は自由で、徳川義直の廟所がある場所に入っていくときだけ拝観料100円がかかる。本堂の向かって右側に入口がある。私はまだ入ったことがない。なので、見てきたような嘘を書くと、「源敬公廟」と書かれた門をくぐると、石段に続いて獅子の門が現れる。そこには左甚五郎が彫った獅子の像があり、そう名づけられた。続く門は龍の門だ。天井には狩野元信が描いた龍の絵がある。ここでも左甚五郎の見事な彫り物を見ることができる。その先にはちょっと見慣れないような建物が建っている。焼香殿と呼ばれるそれは、帰化した中国人(明人)の陳元贇(チンゲンピン)が設計したとされている。義直は儒教に傾倒していたので、そこから来ているのだろう。そして、ようやく義直の廟に辿り着く。義直廟にある祠堂や門なども重要文化財に指定されている。
以上、あたかも見てきたように書いてみました。
徳川義直についても書こうと思ったけど、もうだいぶ長くなってきたので、またの機会にしよう。水戸黄門の師匠でもある義直に関しても、書くことはけっこうある。

地元ローカルでは、定光寺の展望スペースは、ちょっとした夜景の名所として知られている。遠くに名古屋駅のタワーをはじめ、春日井や名古屋の街明かりが見渡せる。実は、石段を登らなくても、上まで車で直接登ることができるのだ。駐車場から徒歩1分ということで、ヒールを履いた女の子でも大丈夫なのが好評なのだろう。夜景自体はそんなにたいしたことないものの、スペースは広いし、ベンチもある。冬場は吹きさらしで寒そうだけど、ホットなふたりなら大丈夫なのか? どうしても寒いときは、自販機でおしるこを買えばいいと思う。コーンスープでもいい。って、そんな昔の缶ジュース、今でもあるんだろうか。
定光寺をゆっくり楽しむなら、名古屋駅からJR中央線に乗って、定光寺駅で降りて歩くのがいい。ここは庄内川沿いの山の斜面に強引に作られた無人駅で、高所恐怖症の人は利用できないという恐ろしい駅だ。一見の価値がある。定光寺は、そこから橋を渡って20分ほど歩いたところにある。
定光寺の南には正伝池を中心とした定光寺公園が整備されていて、散歩したり遊んだりのんびりしたりするのにいい。休みの日はボートも乗れるはずだ。池には六角堂が建っている。こちらは紅葉はちょっと寂しいけど、桜がなかなかいい。夏はハグロトンボがいたり、カワセミもいて、冬はカモがやって来る。
定光寺の紅葉は、もうすっかり終盤戦で、ほぼ終わった感じだった。落ち葉を絡めて撮ってもいいけど、見頃は過ぎている。やはり名古屋市内よりも気温が低いようだ。もう少ししたら、また静かな定光寺が戻ってくる。人がいなくなったときにゆっくり訪れるのもいいだろう。私も、一度くらいは義直の廟へ行って挨拶してこないといけない。次は来年の春か。