
PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f5.6, 1/15s(絞り優先)
上弦の月を見上げるビクターボーグ。バラに月を。月にバラを。バラも眠れない夜は月を見ているのかもしれない。
1991年にデンマークで生まれたこのバラは、秋が深まり他のバラが次々と終わっていく中、最後の生き残りとしてピンク・オレンジの花を咲かせていた。もう、秋バラも終わりが近づいた。
春日井にある王子製紙工場の社宅の一角にバラ園がある。その名も「王子バラ園」、素敵なネーミングだ。去年の初夏、初めてその存在を知ってから今回が4度目の訪問となった。しかし、完全に出遅れた。花がポツリ、ポツリとしか残っていない。遅すぎた春ならぬ遅すぎた秋。この暖かさにすっかり油断してしまった。
秋バラは夏バラに比べると断然数は少ないものの、色が鮮やかで香りも強くなるので、秋ならではのよさもある。秋バラ好きの人も多い。ただ、今日くらい少なくなってしまうとさすがに寂しすぎた。岐阜の花フェスタは今ごろどうなってるんだろう。あそこは種類が多いからまだ賑わってるんだろうか。
王子バラ園は、一般に無料開放されていて、誰でも気軽にバラを見ることができる。全部で200種類2,000株というから、なかなか見応えがある。手入れも行き届いていて、気持ちがいい。初夏のシーズン中は近所の人たちで賑わいを見せる。

遠巻きに見るとすっかり寂しくなったバラ園も、咲いているバラに近づいて見てみると、きれいに咲いているものも残っている。今回見つけたお気に入りがこれ。「ニュー・ウェーブ」というプレートをメモ撮りして、帰ってきてから調べてみると、またもや寺西菊雄。これには自分でも驚いた。
というのも、私が一番好きなバラがマダム・ヴィオレで、これが寺西菊雄作出で、その後いいなと思った荒城の月、天津乙女など、ことごとくが寺西菊雄が作り出したバラだったのだ。これだけ符号するということは、よほど私のバラの好みと寺西菊雄の作りたいバラが一致するということだろう。菊雄なのに菊じゃなくバラ作りの名人になったというのも素敵だ。というか、薔薇雄という名前はちょっとイヤだ。
まあしかし、寺西菊雄ファンは世の中にたくさんいるから、驚くこともないのだろう。このニュー・ウェーブも人気が高いバラだそうだ。切り花ではフォルムという名前で売られていることも多いとか。
2000年作出のモダンローズで、ハイブリッドティー、直立性、八重平咲き。名前の通りウェーブがかかっているのが特徴だ。色は咲き始めがやや青色がかった紫で、開いていくとピンクが強くなる。香りの強さも人気の秘訣だろう。私はあえて臭わないマダム・ヴィオレが好きなのだけど。

かつて製紙工場は公害の元凶だった時代があった。煙突から出る煙や、たれ流す産業廃棄物によって、街や川や海は汚された。あれから時代は流れ、環境問題が声高に叫ばれるようになって製紙工場も大きく変わった。今はもう、煙突から出る煙を見てもおびえる気持ちはない。こうして夕暮れどきに煙突からはき出される煙を見ていると、まだまだ元気に稼働してるなとちょっと嬉しくなったりもする。花粉症の私のためにせっせとネピアを作っておくれよとも思う。
王子製紙は春日井が本社だと思っていたら違った。元々東京の北区王子に渋沢栄一が作った「抄紙会社」が前身なんだとか。なんで春日井と思ったかといえば、都市野球の野球部が「王子製紙春日井」だったからだ。しかしこれも、2002年に米子チームと苫小牧チームが廃部となって春日井に吸収されたことで、チーム名は「王子製紙」となった。ただ、これが戦力アップにつながって、2004年の都市対抗では初優勝を飾ったのだった。ケガの功名と言うべきか。
最近では、北越製紙に対して敵対的買収を仕掛けて失敗したといので話題になった。
そんなこんながありつつ、王子バラ園は今日もさりげない開放で訪れる人を出迎えてくれる。時期はずれとなると、社宅の人が犬を散歩してるくらいで人もいないので、ゆっくりバラを眺めたり写真を撮ったりできる。人目を気にせずバラ写真が撮れるところはそう多くないから、そういう意味でもここはオススメできる。特に5月の終わりから6月にかけては素晴らしい。
名古屋側から行くと、東名阪沿いの環状2号線(302号を)北へ向かって、庄内大橋を渡りきってすぐの信号「松河戸町北」を右折。30号線から道なりに左へ進んで25号線となり、「上条町6」の信号をすぎた直後が入口になってるのでそこを入って、ちょっと行った右に無料駐車場の広場がある。バラ園はその左側だ。
どうしても分からない場合は、そのへんを歩いてる人に、王子バラ園はどこですかと訊けばたぶん教えてくれると思う。ただし、王子、バラ園はどこですか? と区切って訊いてしまうと、え? 私、王子じゃないですが? などと会話がかみ合わなくなる恐れがあるので注意が必要だ。窓の助手席側から身を半分乗り出して、王子! 王子! 王子! と辻元清美のように連呼していると反感を買ってしまうのでやめた方がいいでしょう。外国人に訊いてしまうと、オージー? オー、オージー・ビーフね。と近所のスーパーを紹介してもらえるかも。
それにしても、王子バラ園というと、どうしても白馬にまたがってサーベルを腰に差しているモナコのアンドレア王子なんかを思い浮かべがちな私なのだった。もちろん、そんな人は王子バラ園にはいませんので、期待してはいけないです。