
Canon EOS 10D+SIGMA 70-300mm APO(f4-5.6), f5.6, 1/50s(絞り優先)
カワセミはクラスのアイドルのようにみんなを夢中にさせ、素知らぬふりをして美しくたたずんでいる。すぐ近くにいるのに容易には触れられない。近づこうとすると逃げ、あきらめるとまた戻ってきていつもの場所にいる。近くて遠く、遠くて近い、それがカワセミだ。
このコバルトブルーに魅入られて鳥好きになった人間は多い。私もそのひとりだ。初めて春日井の川でこのカワセミを撮ったときの感動は忘れられない。興奮しながら夢中で連写したのだった。それまでまったく野鳥に興味がなかった私が、曲がりなりにも鳥好きになったのは、あのときのカワセミのおかげに他ならない。
きれいな渓流にしかいなというイメージを持っている人もいるかもしれないけど、実は街の池や川にもけっこういる。テレビの向こう側のアイドルほど遠い存在などではないのだ。
かつて、日本中が高度経済成長で汚れていたとき、カワセミはその数をかなり減らした。しかし、意外にも彼らは強い野鳥だった。このままでは絶滅してしまうと感じたのか、生活の場を田舎ではなく都会へと移すようになった。環境の変化に立ち向かうという気持ちがあったのかどうかは分からないけど、結果的に逃げなかったことが正解だった。今では、こんな汚い川にというようなところでさえ生きていけるようになった。地方の女の子が上京して都会の水に馴染むみたいに。
生息域は、日本とユーラシア大陸。北海道は夏鳥で、他は一年中日本で暮らしている。あまり標高の高いところは好きじゃないらしく、山で見かけることは少ない。
世界中でカワセミの仲間は多く約900種類ほどいる。日本には、カワセミ、ヤマセミ、アカショウビンの3種類がいる。いずれも大きなクチバシが特徴だ。
体長は約17センチくらいと、意外と小さい。スズメよりも少し大きいくらいだ。
体色はいちど見たら忘れがたい。背中のコバルトブルーと、腹のオレンジのコントラスが鮮やかだ。足は赤色をしている。
オスとメスの見分け方は簡単。オスはクチバシが黒色なのに対して、メスは下のクチバシが赤色をしている。
美しい姿は、飛ぶ宝石と呼ばれているほどだ。
エサは主に魚や水生昆虫など。非常にすぐれたハンターで、石の上や木の上からじっと水面を見つめていて、魚を見つけると一気にダイビングして魚を捕まえる。捕まえる確率は80パーセントくらいだというから大したものだ。
ときどき空中でホバリングしてからタイミング見計らって魚を捕まえたりするというテクニックも持っている。大きい魚はクチバシにくわえたまま石などにたたきつけて、暴れないようにしてから飲み込む。カラス並みに賢いかもしれない。
繁殖は春から夏にかけて、年に1回か2回。一夫一妻で、卵は一度に5個前後。
巣作りが独特で、垂直になってる柔らかい土のところにクチバシで奥行き50センチから1メートルくらいの横穴を掘って、そこに卵を産んで育てる。これは敵から卵を守るにはとてもいい場所だ。入り口さえ守っておけば卵をとられる心配はない。大きな鳥は入ってこられないし。こんなところに巣が作れるのは、ヘリコプターのようにホバリングができるからだ。
子育てはオスメス両方でする。
カワセミの名前の由来は、川に棲む鳥が転じて、かわすみ、カワセミになったと言われている。室町時代にはすでにそう呼ばれていたそうだ。それ以前は、青を意味するソニからソニドリという名だったとか。
漢字で書くとカワセミは翡翠になる。これは、宝石のヒスイから来たものではなく、逆にカワセミのことを翡翠と書き、色が似てるから宝石をヒスイと呼ぶようになったんだそうだ。
英名はkingfisher。釣り人の王様だ。英名は分かりやすいけど、見たまま特徴そのままで味も素っ気もないものが多い。
公園の池近くや川べりを歩いていると、チーッ! というするどい声を発して、水面近くを速いスピードで飛んでいく鳥を見たことがないだろうか。それがカワセミだ。
カワセミは縄張りをはっきり持っている鳥で、その範囲は約2キロくらいだそうだから、一度見つけて逃げられたとしても、その場所でじっと待っていたら戻ってくることが多い。特に今の時期は、子育ての最中である確率が高く、ひんぱんにエサをとって帰ってくるので最も見つけやすいときと言えるかもしれない。
写真を撮ることが好きな人がカワセミを目にしたら、それはもう撮らずにはいられなくなるだろう。たとえ野鳥に興味はなくても。望遠レンズを持ってなければどうしても欲しくなってしまうのが人情というものだ。最初は安いやつを買い、でもだんだんもっときれいに撮りたいという欲が出てきて、奥さんやダンナにナイショでLレンズなんて買ってしまった日にはもう引き返せない。しまいにはデジスコ道を突き進んで、立派な鳥屋さんとなってしまう人もいるだろう。
私の場合は、まだまだ全然手前なので大丈夫だ。野鳥の会の人でもないし。ただ、手ぶれ補正の300mmだけは欲しいなとずっと思っている。中古相場が3万から4万。微妙な金額。デジタル一眼本体と変わらない金額のレンズ、それが本当に必要なのかどうなのか、一度カワセミさんに問いただしたい。
ねえ、どう思いますか? などと本当に訊ねたら、カワセミさんはチッチキチーと言いながら飛び去ってしまうことだろう。チッチキチーってどんな意味なんだー、大木こだま師匠ー!?