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  • 生きている水晶を生かすも殺すも身につけた本人次第 2006年12月18日(月)

    PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f2.8, 1/100s(絞り優先) 宝石にも金銀財宝にもまったく無縁の人生を送ってきた私が、最近水晶をつけている。水晶をのぞいているのではない。突然路上でそんな商売を始めたとかそういうことではなくて、魔よけのお守りとしてつけているという意味だ。腕が白すぎるだろう、おまえはウッチャンか、などという野次はこの際無視して、こんな感じで腕に巻いている。腕時計さえ何年もしていな...

    2006/12/19

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  • トラベルトレーナーから純と蛍の靴を経てガラスの靴へ 2006年11月11日(土)

    PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f1.8, 1/100s(絞り優先) 出会いはおととしのオークション。それまでジョニー・スウェード野郎だった私は、持っている靴といえばスウェードのプレーントゥ、スウェードのローファー、スウェードモカシンくらいしかなく、散策に履いていく靴がなかった。一度モカシンで山に行ってエライ目に遭い、歩きのためのウォーキングシューズが必要不可欠だということを痛感することとなった。 漠...

    2006/11/12

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  • ついに日の目を見ることとなった私の秘蔵睡眠学習枕 2006年8月23日(水)

    Canon EOS 10D+Super-Takumar 50mm(f1.4), f4.0, 0.4s(絞り優先) この写真をひと目見て、おおっ、こ、これはっ!? と思う人がどれくらいいるだろうか。すぐに分かったという人は、きっと30代以上だと思う。1970年代から80年代にかけて思春期を過ごした人々だ。 長年秘蔵していた私の睡眠学習枕が、このたびついに日の目を見ることとなった。雑誌の特集で使いたいからちょっと貸して欲しいという依頼が来たのだ。何の特集か深...

    2006/08/24

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  • ポップアップ・トースター選びと値段の話

    Canon EOS D30+EF50mm(f1.8), f2.5, 1/20s(絞り優先) 美味しい食パンを買ってもオーブントースターでは美味しい食パンにならないということに今さらながら気づいた。トースターという名前のくせに、実はトーストは苦手というオーブントースター。 食パンはやはりポップアップトースターだろう。食パンを焼くというただひとつの使命のみを背負って生まれてきたポップアップトースター。自分、それ以外のことは何もできません。...

    2006/03/04

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生きている水晶を生かすも殺すも身につけた本人次第 2006年12月18日(月)

物(Objet)
水晶パワー

PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f2.8, 1/100s(絞り優先)



 宝石にも金銀財宝にもまったく無縁の人生を送ってきた私が、最近水晶をつけている。水晶をのぞいているのではない。突然路上でそんな商売を始めたとかそういうことではなくて、魔よけのお守りとしてつけているという意味だ。腕が白すぎるだろう、おまえはウッチャンか、などという野次はこの際無視して、こんな感じで腕に巻いている。腕時計さえ何年もしていないくらい何もつけない私だから自分でも驚いている。
 それもこれも江原啓之のせいだ。友達に教えてもらって少し前から観始めている「オーラの泉」に出ている江原のアニキは平成狸合戦の実写版だった。あるいは、インチキそうな若花田にもちょっと似ていた。花田勝氏よりもいい人そうだけど。
「オーラの泉」はとても面白い番組なのでおすすめしつつ、見ているとやっぱり江原啓之は本物感が強い。何か見えていることは確かだし、言ってることもごくまっとうなことばかりだ。正論過ぎるくらい正論と言ってもいい。美輪明宏が認めてるくらいだからニセモノではないだろう。別に全面的に肯定して信者のようになる必要は全然なくて、役に立つところだけ参考にして取り込めばいい。彼自身もスピリチュアル・カウンセラーと名乗っているように、迷える人の手助けをしてる人だ。人々に真理を与える宗教家でもない。
 番組を知ってからしばらく経ったとき、たまたま「Book off」の100円コーナーで江原啓之の本を見つけた。そんなに読みたくないけど100円ならとりあえず買っておくかと思って買った本の中に、水晶の話があった。鉱物にはエネルギーが宿っていて、水晶には邪悪なものを祓ったり、精神を浄化する働きがあるという。そのときはふーんと思っただけで過ぎてしまったのだけど、しばらくしてたまたまひょいっと水晶が手に入ってしまった。何気なく見ていたオークションで安かったから。
 こういう一連の流れが生まれてしまえば、もう乗っかるしかない。縁というのはそういうものだろう。それからというもの私は、競馬では連戦連勝、パチンコに行けば打ち止め、宝くじは当たって、クラスではモテモテさ! などということは一切なく、ごく平和に暮らしをしている。いや、いいことはあった。考えてみると悪いことも起こってない。気分的にも安定している。その全部をもちろん水晶のおかげだなんて思ってはいないけど、もしかしたらいいことがあるかもしれないなというプラス思考が良い波動を生んで、結果的に物事がいい方に進んでいる可能性はある。水晶を身につけていると、自分の身に危険が迫ったとき身代わりになってくれるという話もある。とりあえず何かすごく悪いことが起きるまではこのままつけていようと思う。

 前にも書いたように、水晶は日本の国石だ。案外そのことは知られていないようで、なんとなく真珠がそうだと思っている人も多いかもしれない。
 ダイヤモンドが太陽を象徴する石で、水晶はそれと対極にある月を表している。世界中どこででもたくさん採れるからあまりありがたがられてないものの、もしこれが貴重な石だったらダイヤモンドとセットで語られていたことだろう。
 水晶は一般的に石英(せきえい)のことで、これは二酸化ケイ素が結晶してでできた鉱物だ。天然のものは六角柱状の結晶をしてることが多い。
 英語では透明なものをクリスタル(ロッククリスタル)、石英をクォーツ(Quartz)として区別することもある。時計のことをクォーツ時計というのは、時計の多くが水晶発振器を利用して作られているところからきている。その他、工業用のガラス製品やデジカメのローパスフィルタなど、現在でも様々な場所で利用されている。当然、占い師も持っている。
 クリスタルの語源は、ギリシャ語の氷を意味する「クリュスタロス」から転じたものだと言われている。そこから水を象徴するものにもなり、中国の風水でもよく使われている。日本でも、古くは水精と呼ばれ、農作物の精霊のように思われてきたのだとか。
 水晶というのは総称であって、色や内包物によって様々な名前がつけられている。代表的なものに、アメジスト(紫水晶)、黄水晶、紅水晶、煙水晶、黒水晶、レモン水晶などがある。水晶が固まるときに細い針のようなものが入り込んだものをルチル入り水晶といって、これが金色だったりするとゴールドヘアーなどと呼ばれ価値が上がる。種類でいうと200種類以上あると言われる。
 主な水晶鉱山としては、アメリカのアーカンソー州やブラジルのミーナジュライス鉱山などが知られている。日本では山梨県の乙女鉱山でかつてたくさん採れたそうだ。山梨には国内では唯一の宝石博物館がある。武田信玄も水晶の念珠を常に左手につけていたという。
 水晶は天然と人工を見分けるのが難しいと言われているけど、小さな玉の装飾品は安くても天然と思って間違いないと思う。小さいものは天然でも安いからわざわざガラスなどで作るまでもない。天然の印としては、玉の中に傷が入ってることが多い(安いやつは)。ただ、占い師が持ってるような大玉の場合はちょっと注意が必要だ。ガラスではなくても、水晶を溶かして固めたやつが多いから、そういうのは安くても買わない方がいい。いきなり予備知識もなく何万もする大玉を買う人はあまりいないと思うけど。
 こういうのも縁だから、見て気に入ったものを買うのがいいと江原さんも言っている。ただ、ビビビっと来たからといってすぐに飛びついてしまうとビビビ婚で離婚した松田聖子の二の舞になる可能性があるので気をつけたい。

 水晶に限らず鉱物というのは、地球が長い時間をかけて育ててきたものだ。ある意味では生き物とも言える。だからエネルギーが宿り、それが良くも悪くも人体に影響を及ぼす。エネルギーは使えば減るから、そうなったら補充する必要が出てくる。水晶は特に記憶力のいい鉱物と言われていて、いろんなエネルギーを吸収しやすいとされる。
 まず最初に手に入れたら、リセット作業をするようにとどこでも書かれている。半分は儀式のようであり、半分は実際的な意味でのようだ。様々な方法がある中で、流水に浸すというのと月光浴をさせるというのが個人的によさそうだと思っている。蛇口の下にボウルを置いて、その中に水晶を入れて5分ほど水を流しっぱなしにする。そのあと取り出して月光の下で自然乾燥させる。水と月の象徴であることを考えると、これが理にかなってるんじゃないだろうか。他にも土に埋めるや塩をかける、神社へ連れて行くなどの方法も紹介されている。
 身につけているとエネルギーが減ったり、邪気を吸い込んだりするので、そのときは同じようにリセットしてやるといいそうだ。最近ではパソコンの電磁波を吸い取るというような言われ方もしている。

 水晶にそんな力がホントにあるのかよなんて思ったなら、それはまだ縁がないということだ。ほんの少し前までの私がそうだった。縁がなければ人に勧められても持つようにはならない。信じていなければ効果も発揮しないだろう。
 一つ言えることは、水晶だろうとダイヤモンドだろうと、無から有を生み出すわけではないということだ。石は魔法なんかじゃない。ただ、人の思いを感じてそれを増幅する力のようなものがあるというのは信じてもいい。単に見た目がきれいだからというだけで人類がこれほど宝石に魅せられてきたとは思えない。古代社会では呪術的な儀式に使われたり、高貴な身分の人間しか身につけることを許されなかったりしたことを考えても、人が鉱石に特別な力を感じてきたのは間違いない。精神に石が反応するというよりも、石の魅力によって精神が増幅すると言った方が正しいのかもしれない。
 宝石は単なる金持ちの道楽ではない。上手につき合って、パワーを分けてもらえば自分を幸福にしようとするときの手助けをしてくれるものにもなる。ただし、あまりにも魅せられすぎたり執着しすぎたりするのは危うい。手に入れた者を次々と不幸にする宝石があるように、石の魔力や石原真理子に対しては充分身構えておく必要がある。たぶん、水晶を身につけていれば石原真理子にも引っかからなかったと思う。森本レオには特別大きなやつを贈ってあげたい。いや、贈るなら13人の男たちではなく、石原真理子の方なのか? もっと早く教えてあげたかったけど、本が売れてるみたいだから、まあいいか。ああ、翔んだカップル。

トラベルトレーナーから純と蛍の靴を経てガラスの靴へ 2006年11月11日(土)

物(Objet)
トラベルトレーナー2足

PENTAX istDS+Super Takumar 50mm(f1.4), f1.8, 1/100s(絞り優先)



 出会いはおととしのオークション。それまでジョニー・スウェード野郎だった私は、持っている靴といえばスウェードのプレーントゥ、スウェードのローファー、スウェードモカシンくらいしかなく、散策に履いていく靴がなかった。一度モカシンで山に行ってエライ目に遭い、歩きのためのウォーキングシューズが必要不可欠だということを痛感することとなった。
 漠然とナイキあたりで何かないかと探していたけど、これというものが見つからない。私は行動の大部分が車と歩きで、車を運転するときはドライビングシューズ(底が薄いぺったんこの靴)に履き替えるため、ヒモ靴は最初から頭になった。車に乗り降りするたびにいちいちヒモを結んだり解いたりなんてしてられない。とにかく履きやすいことと脱ぎやすいことが絶対的に必要な条件としてあった。
 そのときふと目についたリーボックのトラベルトレーナー。これいいかもしれない。とりあえず安いから(確か3,000円くらいだった)他にいいのが見つかるまでつなぎで履けばいいやと軽い気持ちで買ってみた。あれから2年。これまで出かけた散策地のほとんどすべてはこれを履いていっている。まさかこんなに自分に合う靴だとは思いもしなかった。ハードな山歩き以外なら、森歩きから街までこなすオールラウンダーのこいつは、携帯用の域を軽々と超えている。
 右の茶色いのが最初に買った初代タイプで、もう4、5年前のモデルになるんだろうか。けっこう流行ったから、見たことがある人や実際に買ったという人もいると思う。履き心地のよさは、普通のスニーカーをハードのコンタクトレンズとするなら、これはソフトコンタクトレンズのようだと言えばいいだろう。とにかく軽くて違和感がない。重さは120gほどだろう。デザインもジーンズから多少かっちりした服装にも合う幅の広さを持っている。
 もともとは名前のTRAVEL TRAINERでも分かるように、旅行用の携帯シューズとして開発されたものだった。くるりと折り曲げて丸めて持ち運ぶことが出来る。そういう用途で買った人も多いだろうけど、日常的にも充分活躍できる靴だから、眠らせておくのはもったいない。

 あまりにも気に入って2年も履いたので、そろそろ靴底も減ってくたびれてきた。そこで今回買い足したのが左のトラベルトレーナー2だ。確か2003年発売のモデルだったと思う。2というからにはいろいろ進歩もしていて、やや激しいスポーツにも対応できるような靴底になっているのが大きな変化だ。
 少し履いてみた感じは、慣れのせいもあるだろうけど初代の方が履き心地はいい。特に素足で履いたときの素材感は初代の方が私には合っている。ただ、やっぱりこれはいい。足にピタリと吸い付くようなフィット感は変わらない。同じスリッポンでも足首近くまでホールドするから、モカシンのようにパカパカしない安心感というか安定感がある。トラベルトレーナーは、私が今まで出会った靴の中で個人的なベストであることは間違いない。一生履いてもいいと思えるくらいだ。じじになってもトラベルトレーナー。
 現在はモデル4になっていて、デザインもかなり変わった。3もちょっと違うんじゃないかというような変化をみせていたけど、4はどうなんだろう。いつか機会があったら買ってみたいとは思っている。色もいろいろあるしレディースもあるので、いろんな人にオススメしたい。1万円以下で買えるので、そんなに高い靴でもない。ただし、オークションや通販で買う場合は、普段履いてるサイズのワンサイズ大きいものを買わないといけない。細身ということもあって、いつもと同じサイズだとかなりきつく感じるはずだから。

 リーボックは、どういうわけか日本ではあまり人気がないメーカーだ。1980年代後半に一時かなり人気が出たものの、その後低迷が続き、現在では国内で5位くらいに落ちている。1位はなんといっても宣伝上手のナイキ様で、これはもう動かしようがない。リーボックは機能性重視で、あまりオシャレじゃないところが日本人には受けが悪い理由だろうか。アメリカではナイキについでシェア2位らしいのだけど。
 もともとは、イギリスの陸上選手だったジョセフ・ウィリアム・フォスターが、自分のために手作りした靴を売り始めたことから始まった会社だった。当時はまだリーボックではなく、J.W.フォスター社という名前で、創業は1900年のことだ。そのスパイクを履いた選手がロンドンオリンピックで大活躍したことで一気に名前が売れた。
 リーボックに社名変更したのは1985年のことで、reebokとはアフリカにいる大鹿の呼び名だ。現在はイギリスを代表するスポーツ用品メーカーに成長した。と思ったら、去年2005年にドイツのアディダスに買収されてしまった。日本での巻き返しはあるのかないのか。

 靴の歴史は古く、文明の始まりと共に靴はあった。古代エジプトでは鼻緒がついたサンダルが作られてみんな履いていたし、ヨーロッパの北方騎馬民族などは今でいうモカシンを履いていた。サンダルとモカシンが靴のルーツと言ってよさそうだ。
 日本ではワラジや草履、下駄などから始まり、西洋の靴が履かれるようになるのは江戸時代の終わり頃からで、坂本竜馬がブーツを履いていたのは有名な話だ。
 ただし、文明以前にも靴はあったに違いない。原始人だって裸足はイヤだったに違いないから、何かあるもので工夫して靴を作っていただろう。獣の皮や植物などを利用して。誰かひとりが思いつけば、そこからみんなに広まっていくのに時間はかからなかったはずだ。
 スニーカーのルーツはブラジルにあった。ゴムの木からとれた樹脂を固めて足の裏に貼り付けていたのがスニーカーの原形ということになっている。
 靴としてのスニーカーは新しいようで案外古く、1832年にまでさかのぼる。ニューヨークのウェイト・ウェイブスターという人物が、靴の底にゴムを貼った靴を作って特許を取ったことが現在のスニーカーの始まりとされている。
 当時、スニーカーは靴底にゴムが貼ってあるものすべてを指していた。だから、ブーツの底がゴムならそれはスニーカーだった。スニーカーという言葉は、1837年に新聞の通販で使われたのが初めてだそうだ。もしくは、1916年にKedsが静かな靴というのをセールスポイントにした靴を発売されたときに生まれたという説もある。最初は正式な英語ではなく、忍び寄るという意味のSneakから来た俗語だったようだ。
 当初はスポーツ靴だったスニーカーが一般人の街履きになったのは、1920年代のアメリカ東海岸の大学生(いわゆるアイビーリーガー)が履くようになってからだそうだ。コンバース・オールスターは1917年に発売されている。
 日本でスニーカーという言葉が普通に使われるようになったのは、1960年代以降だ。アイビーブーム全盛の時代に、ヴァンのジャケットにスニーカーというような格好が流行って、そのとき盛んに使われるようになった。そういえば、私たちが子供時代はスニーカーではなく、運動靴やズックと呼んでいた。
 アメリカでは、現在はどうか分からないけど、スニーカーという響きを嫌がる人もいてテニスシューズと呼んだりもしたそうだ。イギリスではトレーナーと呼ぶことも多い。なので、この靴はトラベルトレーナーなのだ。

 新しい靴を買うと、「北の国から」の純と蛍の靴を思い出す。母親の葬式のとき、汚い靴ではみっともないと恋人だった伊丹十三が純と蛍に新しい靴を買い与えた。ふたりは大喜びでそれまで履いていた靴をそのまま靴屋で捨ててしまう。けど、「その靴は父さんに富良野で買ってもらい、明らかにデザインよりも値段で選んでおり、その靴は雨の日も雪の日も嵐の日も僕らの足を守ってくれ…、その靴を洗い、破れたら父さんが縫い、その靴を僕は捨ててもいいと言い…」と純は夜になって激しく後悔する。ふたりは靴屋へ行くがシャッターが閉まっている。ゴミの山を探したけど見つからない。あきらめようとしたところに現れたお巡りさん(平田満)が事情を聞いて一緒に探してくれたけど、とうとう見つからなかった。その夜、純は川に流されている靴を裸足で蛍と追いかけている夢を見るのだった。
 物に執着するのはよくないとはいえ、世の中には捨ててはいけないものや大事にしなければいけないものもある。たとえそれが履き古したオンボロの靴であったとしても。私も、トラベルトレーナーが破れたら縫い、靴底が減ったら古タイヤのゴムを切り取って貼り、最後まで履こうと思う(ホントかよ)。
 それと同時に、どこかにガラスの靴の片方が落ちてないか地面を探すのも忘れないようにしたい。下を見てウロウロしている私を見て、コンタクト落としました? などと声をかけていけない。もっと大事なものを探しているのだから。もし、見つかったらお知らせしますので、サイズが足に合うかどうか試しに来てくださいね。でも、合わなかったからといって腹立ち紛れに私のトラベルトレーナーを履いて帰るのはやめてください。

ついに日の目を見ることとなった私の秘蔵睡眠学習枕 2006年8月23日(水)

物(Objet)
押し入れの奥から睡眠学習枕

Canon EOS 10D+Super-Takumar 50mm(f1.4), f4.0, 0.4s(絞り優先)



 この写真をひと目見て、おおっ、こ、これはっ!? と思う人がどれくらいいるだろうか。すぐに分かったという人は、きっと30代以上だと思う。1970年代から80年代にかけて思春期を過ごした人々だ。
 長年秘蔵していた私の睡眠学習枕が、このたびついに日の目を見ることとなった。雑誌の特集で使いたいからちょっと貸して欲しいという依頼が来たのだ。何の特集か深く訊ねてはいけない。なんとなく想像はつくだろうけど。
 睡眠学習枕……。なんて甘くて酸っぱい響きなんだ。それはまるで、昔書いて出したおバカなラブレターのようだ。あの頃、みんな若かった。

 私がこいつの存在を知ったのは、たぶん何かの雑誌でだったろうと思う。中学生のときだったはずだから、当時購読していた「中一時代」か何かだろうか。さだまさしファンだった素直な中学生の私は(さだまさしと睡眠学習枕に直接の因果関係はない)、雑誌に載っていた誇大広告、いや、体験談にこれはすごそうだなとひどく感心したのだった。
「ねている間に差をつけろ これが僕らの合い言葉!!」
「睡眠学習の威力! この枕ひとつで眠っているうちになんでも覚えられる驚異の学習法!」
「これを使ったら、偏差値が40から60に上がりました!」
「睡眠学習枕のおかげでクラストップになって女の子にモテるようになりました。ありがとうございます」
 こりゃ、買うしかないな、と特に疑いもせず、迷うこともなく心を決めた私は、この頃から自分の記憶力には難があることをよく自覚していた。とはいえ、中学生のおこづかいで買えるほど安いものではなかった。確か3万円以上したんじゃなかったかと思う。大人の今でも迷う金額だ。それでも結果的に今でも手元にあるんだから、どうにか親を説得して買ってもらったのだろう。そのへんの記憶ははっきりしていない。いかに睡眠学習枕が優れものかということを力説する私に親が負けたのだと思う。父親は父親で、ヘッドホンからアルファ波とシータ波が出て脳がすごいことになるという怪しげなものを買っていたくらいだから、似たもの親子と言えばそれまでだ。

 睡眠学習枕を買えなかった人は(買わなかっただけだって?)、枕の中にテープレコーダーが仕込まれていると思っている人がいるようだけど、そうじゃない。枕に入ってるのはスピーカーだけだ。スピーカー入りの枕がなんで3万円もするんだよと早合点してはいけない。ちゃんとタイマーも付いている。おやすみタイマーと、おはようタイマーが。じゃあ、タイマー付きのスピーカー入り枕が3万円じゃないかとあなたは言うだろう。確かにその通り、返す言葉がないのである。
 カセットデッキは自分で用意して、線で枕とつなぐ仕組みになっている。それがタイマーと連動してテープが動いたり止まったりするというわけだ。ただし、もうひとつの目玉として、エンドレステープが付いてくるというのがあった。もはやカセットテープというものがどんなものかよく知らないという若者も多いかもしれないけど、テープはビデオテープの音楽版のようなもので、終わりまで行ったらそこで止まりで終わってしまう。リバースデッキなんてのが出てきたのはもっと後のことだった。なのに、エンドレス。なにしろエンドがレスなのだからすごいと、わけも分からず感動する私なのだった。
 ここまで説明してもまだ睡眠学習枕について具体的な使い方がイメージできない人もいるかもしれない。要するに、そのエンドレステープに自分が覚えたい英単語や歴史年表などを自分で吹き込んで、カセットデッキにセットして、眠りながら聞いて覚えるのだ。あるいは、おはようタイマーをセットして起きる1時間前に流して覚える。
 考えてみると、ほとんど自給自足のこのシステム。枕なんてなくてもできるんじゃねぇかと思わないでもない。確かに、外部のカセットデッキをタイマーでコントロールすれば同じことができそうではある。いやいや、頭の下から聞こえてくるところがミソなのだ(そう思いたい)。ヘッドホンやイヤホンでは寝てる間に外れてどっか飛んでいきそうだし。あくまでも睡眠学習枕に対する私の信頼は厚い。

 使い始めて数日後、これを購入した多くの人がそうであっただろう疑問に私もぶつかることになる。これってホントに効いてるの? という大いなる疑問だ。しかし、その問いの答えは今もって出ていない。たとえるなら、これが効かないということを証明するのは、神様が存在しないことを証明するのと同じくらい不可能なことだからだ。
 理屈としては大いに共感する部分もある。人間の脳波は日常生活を送っているときのベータ波と、リラックスしてるときのアルファ波、更に静かな状態のときはシータ波が出ていることは科学的にも証明されいる。そして、人間は眠りについてすぐと起き出す前にシータ波が出ているので、この時間に脳に刺激を与えることで潜在意識に記憶させるというのは実に理にかなっている。この分野は日本の大学でも外国でも研究されていることからも、満更うそっぱちでもないのだ。
 それに、睡眠学習枕には知られざるもうひとつの効果がある。それは、自分で覚えたいことを吹き込むという行為自体に秘密が隠されている。要するに、覚えるためには声に出して言えというやつだ。カセットに吹き込んだ時点で暗記の8割か9割はすでに完了してるとさえ言えるのだった。カンニングをしようとカンニングペーパーを作ったら覚えてしまっていたというのに似ている。やっぱり枕なんていらないじゃないか! と思うのは痛い目を見てない人の理屈だ。買ってしまった人間としてみたら、少しでも元を取らなくてはいけないと必死になる。3万円だから少なくとも3ヶ月は使わないとといったように。私も確か半年くらいは使って、その後は普通の枕として使っていたような記憶がある。
 思えばこの3万円という値段設定は上手かった。これ以上高かったら誰も買わなくなるし、1万円とかだったらもっと多くの人が気軽に買って、すぐに使わなくなって、現在のような伝説的なグッズにはなっていなかったに違いない。そこまで深い読みがあったとも思えないけど、やるな、(株)三井企画。社長いわく、50万台は売れたというけど本当だろうか。それにしては周りに持ってるやつはいなかったぞ。それとも、みんな恥ずかしくて言い出せなかっただけだろうか。
 三度ほどモデルチェンジが行われたそうで、私の持ってるやつは、model-2001とある。まさか、21世紀を先取り気分で付けられた型番なんだろうか?

 実は睡眠学習枕、21世紀の今も形を変えて販売されているというからちょっと驚く。やはり理屈としては間違ってなかったのだ。といっても本家の三井企画ではなく、別の会社でだけど。スタイルは洗練されて、枕としても睡眠を重視したものとなっている。値段は1万5,000円ほどだから、さほど高いものではない。学習用というよりも、リラクゼーション効果のある音楽を流すなど、眠りの方に主眼が置かれているようだ。
 睡眠学習枕を買ってダマされたとか後悔したとか、そんなことはまったく思わない。送られてきたものを見たときから、これは将来いい話のタネになるぞという予感めいたものがあったし、こうしてブログの記事になったり、人の役に立ったりしたから、充分元は取ったと言えるだろう。
 あなたもひとつ、どうですか、睡眠学習枕。いいですよ、これ。自分の声を聴きながら眠るのはどうなんだという人には、私、いい方法を思いつきました。カレシ、カノジョに吹き込んでもらうんです。カノジョの読み上げる歴史年号と共に眠りにつき、カレシのささやく英単語で眠りから目覚める。うーん、なんて素敵な眠りなんだ。好きな人の声を聞いて幸福感に満たされながら同時に学習もできてしまうというこの画期的なアイディア。三井企画に企画を持ち込みたいくらいだ。有名人バージョンのカセットテープも売り出したら、第二次睡眠学習枕ブームが到来するかも!?

ポップアップ・トースター選びと値段の話

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ポップアップトースターを買ってみた

Canon EOS D30+EF50mm(f1.8), f2.5, 1/20s(絞り優先)


 美味しい食パンを買ってもオーブントースターでは美味しい食パンにならないということに今さらながら気づいた。トースターという名前のくせに、実はトーストは苦手というオーブントースター。
 食パンはやはりポップアップトースターだろう。食パンを焼くというただひとつの使命のみを背負って生まれてきたポップアップトースター。自分、それ以外のことは何もできません。不器用ですから……。高倉健さん的なカッコよさ。
 いざポップアップトースターを買おうと決めて、まず問題となるのが値段だ。値段かよ! 性能よりも、デザインよりも、メーカーよりも、まず値段。そこから出発して最終的な妥結点を見いだしたい。
 だいたいこれくらいっていう相場の見当がつかないまま2,000円くらいかなと思いつつ、いつものようにオークションを見て回る。なんだか値段にバラツキがある。安いのはそれこそ500円くらいから、高いものは1万円オーバーまで。これちょっとよさそうだなっていうのは3,000円くらいのものになる。予算的にはそれでもいいんだけど、2、3回で使わなくなってしまう可能性を考えるとちょっともったいないような気もする。
 すぐに飛びつくとたいていロクなことにならないので、一週間くらい様子を見て、だいたい相場が掴めたところで買うのを決めた。TESCOMのCT20TESCOMなんて聞いたことがないメーカーだけど、定価は8,400円とまずまずだったし、性能的にも920Wと670Wの切り替えができて、解凍焼きや焼き色調節ダイヤルなど、ひととおり揃ってるから問題はないだろう。デザインも気に入った。シャッターふたというのも気が利いている。送料合わせて1,500円くらいと格安で買えたし、まずどんなものか試しに使ってみるには申し分ない選択だった。

 早速焼いてみる。外はサクっと、中はふんわりといくかどうか。で、いったのか、と私に問いますか? そりゃ問いますよね。うーん、とうなんだろう、たぶん、と答える私。何しろまだ一回しか焼いてないのではっきりしたことは言えないのだ。そもそも食パン自体、ここ最近で4回くらいしか食べてないし。ただ、はっきり分かったことといえば、私は厚切りよりも薄切りでカリカリに焼いた食パンが好きらしい、ということだ。って、それとトースターの性能とは話が別だろう。
 もう一回焼けばもう少しはっきりしたことが言えると思うんだけど。ブログに書くのを早まったかもしれない。食パン自体も、前は美味しいパン屋さんで買ったのに対して今回は近所のスーパーの中で買ったものだから、その違いもあったと思う。
 同じパンをポップアップトースターとオーブントースターで焼き比べれば分かるのか。今度はそうしてみよう。私は決して味音痴などではないのだということをそのときこそ証明してみせる。

 しかし、こうなってくると、気になるのがトースターの性能差だ。聞いたことがないメーカーの定価2,000円くらいのものと、有名メーカーの1万円を超えるものとでは焼き上がりの味に明らかな差が出るものなのだろうか? 更に外国に目を向けると、3万円を超えるトースターなどもある。何々ホテル御用達、なんて言われると、なんだかものすごく欲しくなってしまうではないか。イタリアンのデザイナーズのようなトースターもインテリアとしては最高だ。あれこれ買って使い比べてみたくなってきた。
 いろいろ調べていたら、英国製がとても魅力的で私を誘ってくる。食パンはイギリスパンと言われるだけに、やはり英国が本場と見るべきだろう。アメリカにも伝統的なメーカーがあるけど、ここはひとつ英国でいきたい。って、ホントにいくつもりか!?
 ラッセルホブスは、イギリスの代表的な家電メーカーで、ここのトースターは欧米のホテルなどでも高い評価を得てるらしい。1万円くらいと、買って買えない金額じゃない。
 しかし、上には上がいる。その名もデュアリット。英国の業務用、ホテル用の電気調理メーカーで、一番安いトースターでも2万円、高いものでは4万5,000円もする。何しろ職人さんがひとつひとつ手作りしてるというから値段も高くなろうというものだ。今でも昔のままのデザインのものを、総煉瓦造りの建物で手作業してるらしい。4万5,000円という金額自体は庶民でも買える値段ではあるけど、トースターにその値段となると、心とお金に余裕がないとなかなか手が出せない。私? そんな余裕があったら、デジをもう1台買うぞ。
 4万5,000円のデュアリット製トースターで焼いた食パンは一体どんな味がするんだろう? 敷島パンなんて焼こうとしたら、入れたとたんに勝手にポップアップしてパンをはじき出してくるんじゃないかと心配になる。職人の魂が拒絶するかもしれない。よかったら、誰か買ってみてください、デュアリット。そして、どんな味がするのか私に教えてください。使わなくなったら私にくれてもいいです。

 その他、トースター選びのコツとしては、やはりワット数が高いほどいいというのがある。パンの中身の水分が飛ばないうちに一気に焼き上げるから、表面はカリッとして中身はふわっとなる。冷凍する人なら解凍ボタンがあるやつにした方がいいし、一枚焼き専用の人は一枚焼きボタンがあると便利だろう。山型の食パンが好きなら、山型用の横向きに入れるトースターもある。焼き色調節もできないよりできた方がいい。
 焼く前にトースターをあらかじめ温めておくのがポイントだ。その方が美味しく焼ける。厚切りパンは表面に少し切り込みを入れるといいそうだ。
 ポップアップトースターのデメリットはといえば、ピザなんかが焼けないことはもちろんのこと、バターを乗せて焼けないというのもある。これは個人的にちょっと残念だ。焼き上がったパンにバターを伸ばして付けるのは難しい。
 あと、銀色はおしゃれでインテリアとしてはいいんだけど、指紋がベタベタつくのがやっかいだ。特に過去に指紋をよくとられた人にとっては苦い思い出がよみがえってしまう恐れがある。あんまり指紋が付くもんだから、しまいには手袋をして持ちたくなってくるほどだ。ハングマンのように指紋を消してしまうかとさえ思う(そこまでは思わないだろう)。

 毎朝食パンを食べる人なら、1万円くらいは小さな贅沢として自分や家族のために買ってみてもいいかもしれない。デュアリットはともかく、ラッセルホブスの1万円は高くない。20年は壊れないだろうし。
 私は当面、このTESCOMでいこうと思う。まずはオーブントースターとの仕上がりの違いを区別するところから始めよう。目隠しして、皿をシャッフルしたあと、両方食べてどちらがどちらで焼いたか当てるのだ。でもそれ、ひとりでやっても盛り上がらないだろうなぁ。
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