猫は人のために、人は猫のために - 現身日和 【うつせみびより】

猫は人のために、人は猫のために

こりゃいい野良だ

Canon EOS D30+EF75-300mm(f4-5.6), f4.5, 1/90s(絞り優先)


 いい猫に出会った。天白公園の池のほとりでひなたぼっこをしていたこいつは、私の好みにぴったりだった。明るい茶色の毛並みにむくむくの体、そしてあくまでもどこまでも丸い顔。加えて口のまわりの泥棒メイクが最高のチャームポイントとなっている。思わず笑ってしまった。写真を何度見ても笑える。表情がまたいい。
 この野良との出会いは、私をとても幸せな気分にさせてくれた。ありがとう。お礼にカリカリを投入だ、と思ったら人が歩いてきて逃げてしまった。また会いに行かなくては。

 天白公園はとても猫の多いところだ。市内の公園でも猫の多いところと少ないところというのが確かにある。すべての公園にもれなく猫がいるというわけではない。主な原因は、近所に猫好きで世話好きの人がいるかいないかだろう。もしくは、反対派の力が強くないところと言い換えてもいい。大都会の路地裏で生活してる猫なら残飯で生きていけても、郊外の街中ではそうはいかない。今どき小動物なんてそんなにいないから、人からメシをもらうしかない。もらえないところには居つかないし、もらえるところは増えていく。
 野良についての意見は人それぞれあるだろうけど、個人的には野良くらいいてもいいじゃないかと思うのだ。今の平和な世の中で、それくらいの気持ちの余裕があっていい。野良猫を外で飼っておく余裕もないようなぎりぎりの社会では寂しい。迷惑をかけるということにおいては、猫も犬も人間も他の動物も同じだ。社会生活の中で許し合っていくしかない。

 野良猫について書かれた内田百けん(けんは門の中に月)の『ノラや』という本がある。とても悲しくて、笑えて、愛おしい作品なので、猫を大切に思うすべての人におすすめしたい。猫嫌いの人は受け付けないだろうけど、猫好きの人がこれを読めば、野良に対する思いはずっと深くなるんじゃないかと思う。
 作家内田百けんが70歳近いとき、親子猫がふらりと家に迷い込んできて、子猫を託して母猫は去ってしまう。偏屈じじいの百けん先生ではあるけど、これはそのままにしておけないと、ノラと名づけて仕方なく世話をすることにした。そのノラが晴れた春の日、いつもとは違う方に走っていったかと思うとついに帰ってこなくなってしまった。それ以来、百けん先生は来る日も来る日もノラを探し回り、泣き暮れる日々を送ることになる。風呂にも入らず顔も洗わず、「迷猫」の新聞広告を打ち、折込チラシを配り、連絡があれば夜でも駆けつけてはがっかりして帰っていく。そんなめそめそした毎日を書いているだけの日記が何故これほどまで胸に迫り、悲しくも愛おしい気持ちになるかといえば、それはやはり内田百けんという人の魅力に違いない。
 この本でしか百けんのことを知らない人は、70の憐れな泣き虫じいさんにしか映らないかもしれないけど、作家百けんを知る人にとってこの『ノラや』は非常に感慨深いものがある。夏目漱石晩年の弟子で、芥川龍之介とは兄弟弟子で友達だった。非常に偏屈で頑固なじいさんで、家に訪ねていくと玄関にこんな貼り紙が貼ってあったという。
「世の中に 人の来るこそうれしけれ とはいふもののお前ではなし」
 家の中に入ると、戦後何年も経っているのに電灯に灯火管制の黒いカバーがかかっていたらしい。でも、その中で文鳥なんかをたくさん飼っていたというから、やはり生き物に対する細やかな愛情はあったのだろう。
 黒澤明監督の遺作となった『まあだだよ』はこの内田百けんとその仲間たちを描いた作品なので、本と一緒に観てみるのもいい。私は大好きな映画なのであわせておすすめしたい。

『ノラや』を読むと、猫というのは人間のために作られたものかもしれないなと思う。もちろん、猫は人間がいなくても地球に誕生して生きていただろうけど、人が生まれたことで猫は人のためのものになった。幸か不幸か、好むと好まざるとに関わらず。猫がいなければ生きていけないような人も世の中にはいるし、もし猫がいなくなったらこの世界はずいぶん味気ないものになってしまうだろうと私なんかは思う。
 この作品を読んだのはもうずいぶん前のことになる。10年以上は経ってるだろう。それでもいまだに私の心の中にはノラがいて、百けん先生と一緒になって、ノラや、ノラ、と探している。そして、ノラの好物だった出前の寿司の卵焼きを見ると、ちょっとだけ泣きそうになるのだ。

ノラや改版 [ 内田百間 ]
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コメント
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おひさしぶりです!

こんにちは~。
来ていただいてたみたいでありがたいです~。
相変わらず雪は、ほぼ毎日降っております・・・。自分としては雪は好きなのですが、それによって道路の除雪が追いついていなくて、どうしても車を使う事が多くなる私としては、ツライのです。
野良猫、というか外で猫を見かける事が、最近まったくといって良いほどなくなりました。なんでなんだろうと色々考えてみたのですが、ノラはこの寒さでは冬を越せないという事と家猫は飼い主があまり外に出さないという事ではないかと思いました。
自宅は家族と一緒で猫はダメ!って言われてるし私自身も猫アレルギーなので、飼う事もできず、猫ちゃん欲求不満気味です。飼いたいな~猫・・・。

ではでは、またおじゃまします~。

2006-01-16 12:52 | from kuroneko

あの雪はみんなどこへ行くんだろう

★kuronekoさん

 こんにちは。
 元気でしたか?

 そちらは相変わらずの雪みたいですね。でも昨日、今日は暖かかったから、溶け出してそれはそれで大変そうですね。雪って溶けると汚いですもんね。(^^;
 しかし、今年ほど雪がこんなにも恐ろしいものだとは思いませんでした。毎日のようにニュースになってますもんね。
 あんなに積もった雪が最終的にはどこへ消えてしまうんだろう、というのも不思議に思ったりします。雨に換算(?)してもかなりの量ですよね。
 名古屋はとっても暖かいです。もはや春の陽気と言ってもいいほど。逆にこの暖かさは真冬の1月としては異常だ。

 ノラはそっちにはさすがにほとんどいないみたいですね。寒いとやっぱり生き延びられないですよね。(^^;
 どれくらいの気温に境があるんだろう。
 北海道の猫は、実は家の中でぬくぬくしてて、寒さには弱いのかも?(笑)
 猫アレルギーとなると飼うのはなかなか難しいだろうけど、機会があればぜひ。それまではこちらの猫を写真で紹介しますね。

2006-01-17 03:32 | from オオタ | Edit

ミーコや

やっと図書館で借りられたので読んでみました。
ノラがあまりにもミーちゃんに似ていて、とても他人事には思えませんでした。
私にとってもミーちゃんは初めての飼い猫なので、ノラよりもクルの最期が辛かったです。
これからも精一杯可愛がってやろうと思います。

2006-02-04 17:34 | from K-Hyodo | Edit

今でも残る記憶

★K-Hyodoさん

 おー、『ノラや』読んでくれたんですね。それは嬉しいなぁ。
 でも切なくて悲しかったでしょ?(>_<)
 あれを読んでる間は私も、自分の猫がいなくなったような気持ちになったものです。
 でも、月日が経つと、ノラの思い出はいい方向に変わっていくから、K-Hyodoさんも楽しみにしていてくださいね。

 どんな猫も終わりが来るから、それはとてもつらいことだけど、でもやっぱりすごく自分の中に残るものがあります。
 私はおクロちゃんを看取り、石川ミーを病院で亡くしたけど、今でもずっと心にいます。

 K-Hyodoさんも、これで今後ますますミーちゃんを猫かわいがりするようになるでしょう(笑)。

2006-02-05 03:46 | from オオタ | Edit

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